第7章 あなたと共に
「行くのか」
その声はエルヴィンのものだった。
「……うん、そう」
会いたかった、本当に。だけど今は……会いたくなかったかもしれない。堪えていた涙が溢れた。鼻を啜るが寒さのせいにして誤魔化せる。
「身重の体で、こんな雪の中を歩いて行くつもりか」
「……そう」
「どのくらいかかるんだ、故郷まで」
「……馬車で8時間」
「……徒歩なら早くて2日か」
黙るエルヴィン。ユリアは沈黙を破った。
「邪魔をするつもりなら……無駄だから。あの日話した事はもう忘れたかもしれないから言うけど、私は必ずここから逃げて生き抜いてみせる、自由を手に入れて、両親とこの子と、幸せに暮らす」
ユリアは腹を撫でた。憎いカルデリアの血を継がぬこの子。継いでいても腹の子には関係無いが、何より……エルヴィンの血を受け継ぐこの子は、本当に愛おしい。
まだ授かって間もないが、体に異変を感じた時には、両親への吉報を伝えられる喜びと同時に、どうしようもない愛しさが溢れ出して涙を流した。
必ず生き抜いて、自由を手に入れる。必ず。
ユリアの言葉を聞いたエルヴィンがこちらに近付いてきて、目の前に立ち、膝を着いて目を合わせた。
「私もご一緒させて下さい」
まさかの言葉にユリアは理解出来ない。
「……は、何言って……」
「ご一緒させて下さい、と言いました。あの日私が言いかけた言葉、あなたは覚えていらっしゃらないかもしれませんが……あなたとのあの時間は夢の様でした。私はあなたを一目見たときから、二年間想いを寄せていたのだから」
二年前。庭で雪かきをしていたエルヴィンは馬車から出てきた見知らぬ、どこか浮かない顔をした女を見た。前にメイドが話していた主が娶った女。噂で聞いた借金の肩代わりの女に、エルヴィンは恋をしたのだ。