第7章 あなたと共に
鋸を再び首にあてる。
「奥様」
「触らないで。あなたは知らないふりをして出ていけばいい。お願い、もう……生きたくないの、死なせて」
グッと首に鋭い刃が食い込む。
するとエルヴィンが鋸の刃と腕を掴み、首から離した。
力が強く、ユリアは腕が痛くなり鋸を離した。
「なん……なのよアンタ……!」
「申し訳ございません、ですがこういうことは一人の時にすべきです」
「……は……」
エルヴィンは鋸を元あった場所に戻し、地面に腰を下ろした。
「奥様は何故ここに?」
「何で……って……」
事の元凶は庭師に色目を使っていると言われたからだ。
「……関係ないでしょ。庭師の分際で詮索しないで」
理由は言わず代わりに強がってみせたが、実際の地位はこの庭師より下の扱いだろう。ユリアは悔しくなり、また涙が零れた。
スっと目の前にハンカチが差し出された。
「どうぞ」
「……要らない、話しかけないで」
「話は掛けないので、お使い下さい」
イラッとしてエルヴィンを見る。近くで見ると、割と端正な顔立ちで、近くに置かれたランプで瞳が碧い宝石のように輝いていた。
ユリアは目を逸らしてハンカチを奪い取って手の中で握った。
「話す気になったら話しかけて下さい」
エルヴィンは麻布の覆われた藁に背を預けた。
ユリアはそれを横目に、エルヴィンから受け取ったハンカチで静かに涙を拭きながら肩を震わせた。