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エルヴィン裏作品集

第21章 器の守護者



落馬したような、そんな重い衝撃が胸にきた。ユリアが、生きていた。それを喜ぶことより先に、酷くショックを受けた。

俺はその場にいることが出来ず、鍵のことは気にも止めず、とりあえず団長室を逃げるように出て行った。

団長室から出て、部屋に戻るまでにある手洗い場で吐き戻した。こんなにストレスを感じたのは初陣以来だ。

「ユリア……」

声が出ないが、名前を口に出すとまた吐き気がして吐いた。苦い液しかでない。なんせ今日は何も食ってない。

食堂で、夜食にと晩の余りのパンがカゴにあったので、一つ手にして部屋へ戻って、夜が開けるまで泣いた。非番だった今日が明け、また数日、仕事だ。

ソレをみてからは、俺の心は空っぽだった。
ユリアが生きていた喜びよりも、嫉妬や怒り、焦燥感や悔しさ……色んな感情に飲み込まれて毎日吐いた。立体機動の訓練中にも関わらず、空中でゲロを撒き散らしてしまう始末。

エルヴィン・スミスとユリア、二人はいつから。
二人が名前を呼び合う声や、ユリアから聞いたことがない甘い、可愛らしい声が耳から離れない。

……確かめるしかない。やるべき仕事、全てが終わってから俺は団長室に向かうことにした。まだまだ下っ端の俺は片付けなければならない仕事があり、今夜も月が真上に来るほどに時間は遅くなってしまった。流石に団長は、前みたいに施錠しているだろうか。

団長室に着くが、部屋の明かりは消えていた。
やはり……、そう思いながらもそっとドアノブに手をやる。

……開いた。施錠されていない。
覗いてみれば団長は居ない。代わりにまた隠し部屋からは光が差していて、俺は静かに施錠してから、光に集まる虫のように扉の光へと向かい、ひっそりと中を覗いた。

「っふ……っ」

声を上げそうになり、息を止める。

エルヴィン団長が、奥にあるベッドに横たわったユリアの身体を舐めていた。しかも足の裏。それから脇に移って、むしゃぶりついていて、ユリアは嬉しそうに笑っている。

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