第18章 懺 悔
一年前。学生最後の年。
ユリアはボーイフレンドであるジャンとのデートを終えて帰宅する所だった。
「なあ、送ってやるって」
そう言うジャンにキスをして電車に押し込む。
「また明日ね、ジャン」
「……ああ」
閉まった電車のドアに手を当てた、どこか不安げなジャンと互いに見つめ合い、ユリアは電車が見えなくなるまで見送った。
彼とはまだ、いや、ユリアはそもそも“経験”がない。
交際もジャンが初めてで、互いを大事にするあまり尻込みしてしまってキスから先に進めずにいる。ジャンは本当にいいボーイフレンドだ。
ユリアは歩きながら、デートが終わって今帰宅していることを伝える為に家に電話をするが誰も出ず、ユリアはまたリダイアルした。するとすぐに電話が取られた。
「ママ?デート終わって、今から帰るね」
電話に出たが話さない。異様な空気を強く感じる。
「……ママ?」
ブツ、と電話が切られた。
ザワつく胸に駆け出した足を止めることなく自宅へと向かう。
自宅に着き、ドアを開けて入る。玄関の近くにある電話は、受話器がきちんと定位置にある。
「ママ?パパ……」
リビングに入り、飛び込んできた光景にユリアは頭が真っ白になる。
床に転がる、拘束された父と、同じく拘束され、下半身を剥き出しにして、脚を開いたまま眠る母。どちらからも胸や首から大量の血が流れ、床には赤黒い液体が水溜まりを作っていた。
「は……っ、は……?ぁ……」
上手く呼吸が出来ない、足が覚束無い、よろけて床に尻餅をついた。
「ママ……パパ……?」
頭が回らずに床に座ったまま、二人の亡骸を交互に見ていた。