第16章 君が知らないこと
「……あーもう、クソ……誰だよ」
一瞬でピリついた表情になったエルヴィンは、玄関から聞こえた言葉でユリアと共に固まる事になる。
「警察ですが、いらっしゃいますか」
エルヴィンはユリアから離れ、玄関から見えない場所にユリアを行かせて玄関に向かった。
ユリアは息を殺しながらも、焦燥感や恐怖に襲われていた。エルヴィンが逮捕されたら。自分はすぐに保護され、またあのクソ達の所に。
それより、今はもっと怖いのは、エルヴィンと離れてしまうこと。
涙が出始めた。エルヴィンと警察のやり取りは全く耳に入らない。膝を抱えたまま、声を殺して泣いた。
手首に爪をくい込ませた。何度も、何度も、強く、皮を剥がすように。
怖い。
「ユリアちゃん!!」
エルヴィンに揺さぶられて顔を上げた。
すぐにエルヴィンに抱き着く。
「大丈夫だよ。自転車の盗難が多いみたいだから、その注意に来ただけだった」
頭を撫でられてそこにキスされる。
体を離して顔をあげれば、エルヴィンと額が合わさった。
「不安だった?」
「……怖かった」
「うん。でも大丈夫。俺はどこにも行かないし、ユリアちゃんを幸せにするよ」
「……本当に?」
「うん、本当に」
大きな手のひらが頭と身体を抱き寄せ、そのまま立ち上がった。