第16章 君が知らないこと
「何故?どうしたんだ急に」
「なんでもないけど……」
「じゃあしないべきだな。本当にどうした?らしくないな」
「……したいの、私、もう大人だから」
学校も行ってないし。
「高校に行ってる同級生がヤってて、高校に行ってなくて、もう大人の私がしないのは変じゃん」
エルヴィンは「ほう」と言った。
「じゃあするよ?止めてって言っても、止めないぞ?……ユリアは、大人だしな」
エルヴィンの目を、初めて怖く感じた。
腕をスルスルと肩まで上る大きな手のひらは、いつも家事をしてる時に「ありがとう、助かるよ」と頭を不器用に撫でるものとは違って、どこか繊細で、ゾクゾクとした。
「セックスしたことある?」
「無いって、知ってるでしょ」
「はは、そうだよな。でもほら、一応確認だよ」
エルヴィンが近付く。キスかと思ったが違った。
首筋にキスされて、べろ、と分厚い舌が首を舐めた。
「っえ!?」
「こんなことで驚くなよ。大人だろ」
「っ……ごめん」
「謝らなくていい。ほら、集中して」
治ってきた傷痕や、指先なんかを丁寧に舌が這う。
熱くて、溶けてしまいそうだ。
「ユリアは全部美味しいな……」
鎖骨を吸い始めたエルヴィン。チクリと痛みが走って、エルヴィンが吸った場所を見れば赤い痕があった。
「これはみんな付けられるからな」
「そ、なの」
「ああ。愛してる人に付けるんだ。恋人や旦那さんとか奥さんに」
「愛してる、人……?」
「そう、ユリアは俺の愛してる人だよ」
嬉しい。
「嬉しい?」
「……は?」
「いや、嬉しそうだったから」