第16章 君が知らないこと
パリ、とおにぎりをかじる。味のついていない海苔が唇に引っ付いた。まだご飯だけ。もうひと齧りしてやっと味が来た。
「……美味しい」
「そっか、良かった。まだあるから沢山食べて」
美味しい。美味しい、ご飯は二日ぶり。三日前はスーパーで盗んだパンだった。
おっさんはジュースやお茶を並べて、「どれがいい?」と選ばせてくれた。私は白いジュースを選んだ。
「お、いいね。沢山食べる子好きなんだよ俺。もっと食べて」
好きなんだよ、の言葉に、不意にドキッとした。
無視しておにぎりを食べる。
胡座をかき、その膝に片腕を立てて頬杖をつくおっさんは私をニコニコしながら見ている。
「……何」
「いいや、何も。美味しい?」
「……普通」
「え?あれぇ?」
私は一個目のおにぎりを食べ終えた。牛カルビ。初めて食べた。
「そういえば君、名前は?」
「は?」
「いや、お礼代わりに教えて欲しいなって。下の名前でいいからさ」
「……ユリア」
「ユリアちゃんかぁ。可愛いね。」
「可愛くない」
クズが付けた名前だから。
「好きじゃないの?」
「嫌い」
「ふうん。まあ最近は苗字も名前も変えられるみたいだからいつか変えたらいいよ」
「……うざ」
「えっ、何故」
それからおっさんは私の怪我の原因や、何故あんな場所に、こんな時間に一人でいたのかを問い質してきた。
どうせ見ず知らずのおじさん。私はもう二度と会わないだろうからと話した。