第16章 君が知らないこと
公園から歩いて五分もかからない場所に、おっさんの家はあった。チカチカと不規則に着いては消える気持ち程度のアパートに付けられた電気。階段を上がっていくおっさんの後に続いて上がっていく。
足を上げるのが辛い。さっきまでは無かった痛みや、寒さが徐々に分かるようになってきた。
二階について端にある部屋の前に立ち止まり、鍵がかかってないのかそのままドアを引いて開ける。
「どうぞ」
先に入ったおっさんが、真っ暗な玄関をスマホのライトで照らす。靴が散乱し、いつから掃いてないのか分からないが、砂が沢山あった。
まるで砂がある地面みたいな音を立てて私は玄関に入り、靴を脱ぐ。靴下を履いてない足が蒸れて気持ち悪かった。素足を床につけるとひんやりと神経を冷やしていく感じがする。
通ってきたキッチンはゴミ臭い。おっさんについて行くと、すぐに部屋に着いた。
電気が付けられ、漸くおっさんの顔が見えた。
「……外人」
「その呼び方、嫌いだな」
ボサボサの髪、髭が生えてて、太い眉毛に、上下が灰色のスウェット。目線は遥か上。
部屋は汚い。おっさんが立つ布団の周りにエロ本やカップ麺やお菓子ののゴミが散乱している。
ギシ、と床が鳴る。
おっさんは布団に腰を下ろしてコンビニの袋を漁った。
「あ、座りなよ。今日は割と綺麗な方なんだよ」
いや、汚ねえし。
私はあからさまに嫌な顔をしながら、おっさんと距離を取って床に座った。
するとおっさんがおにぎりを手渡してきた。
「牛カルビおにぎり。好き?てかお腹すいてる?」
「……知らない」
おにぎりの事も、とっくの昔にピークを過ぎた空腹で、腹が空いてるか分からず“知らない”といった。
おっさんはニコニコとしながらおにぎりを差し出したまま。私はそれを黙って受け取った。