第15章 消失
次の日、エルヴィンに妊娠報告をしたらしいユリアははしゃいでいた。
「“良い兄になれるように、今のうちからしっかり勉強しておく”とか、“どっちが産まれても母さんと父さんの子で、俺のきょうだいだから絶対可愛い、会えるのが楽しみだ”って喜んでた!」
しかしその言葉とは裏腹に、俺と二人きりになったエルヴィンは一週間、一切口を利かなくなった。
ただ唯一話した内容は
「……有り得ない。いつだ」
親に性交シた日を聞く子どもなんて聞いたことがない。仮にも親だぞ、と思いつつも優越感に
「お前が風呂に入っている間だ」
そう答えると間の抜けた声で「は?」と返された。そこからは無視。ユリアの前で必要な事は話すが一切会話は無かった。
あんなに信頼し合った“仲間”だった俺達は、たった一人の女によっていとも簡単に関係を乱されている。運命の悪戯にしては酷過ぎる。せめてエルヴィンの記憶は戻らないべきだった。ヤツの執念深さと手段の選ばなさは記憶が戻ってからは健在だ。
高校に入ったばかりだが身長も170cmとメキメキ成長している。
奴に比べればか弱いユリア。エルヴィンがどうにかすれば、どうにかなってしまう。
それだけは絶対に防がなければならない。
俺は人生で既に二回、強烈な「有り得ない、は有り得ない」を経験している。
前世で仲間だった男が前世で自分の恋人だった女から産まれるなんて有り得ない、は有り得ない。
その生まれた子供が15歳の誕生日に前世の記憶が突然蘇るなんて有り得ない、は有り得ない。
だから有り得ないことは絶対に有り得ない。
二度あることは三度ある。
厄介な事は未然に防がなければならない。
たとえ昔は仲間だった男(現我が子)にシカトされようと。