第15章 消失
桜が舞い、エルヴィンが高校へと進学した月。
「妊娠されています。おめでとうございます」
エルヴィンを出産した産院で、いつぞやら聞いたセリフを聞いた。このセリフをまた、こんなに年月が経ってから聞くことになるなんて。
体に変化が表れたのは、あの危険日にしたセックス後。生理は来ないが不順かと思って呑気に過ごしていれば、吐き気と食欲不振。直感で産婦人科に来てみれば15年振りの妊娠が発覚した。
ミケ、どんな顔をするかな。エルヴィンは嬉しいかな。
二人の反応を考えながら、まだ出てもいないお腹を撫でる。
体力に不安はあるけど、楽しみだ。
夜。晩酌をする前のミケに話があると持ち出した。
敢えて重たい空気から始めて、妊娠発表時に一気にテンションを上げる作戦。その空気感にミケは別れ話かなにかと勘違いしたのかかなり落ち込んでいて、笑ってしまい作戦は失敗。
安心したミケに封筒を渡して、開けてもらう。
中には手紙を用意した。
“パパ!今年の12月下旬に会える予定だよ!もしかしたらクリスマスベビーかもね!待っててね。パパの二人目の子どもより”
手紙を何度も何度も読んでる。やっと、手紙と別に同封されたエコーを見て、私の顔を見た。
「……ユリア……」
「うん?」
「い、いるのか」
「……うん」
「そうか」
個人的な意見だけど、本当に驚いた人間って、意外に反応薄いんだよね。
ミケは特にそう。いつもはバリバリ判断も早くて行動も早いのに、こういうサプライズには上手く応対出来なくて反応薄い。だけど分かってる。小さくても大きなサプライズは大成功。
ミケはダイニングテーブルの席を立ち、私に近付いてきて、抱き締めてくれた。
「ユリア、ありがとう。愛してる」
「ん、私も愛してる」
私達はその夜、抱き合って眠った。