第15章 消失
日に日に、前世の元上司に似てくる我が子。
なんなら声も性格や外見も全てアイツ。
今俺たち家族は、またひとつ記念日を迎えた。
俺達夫婦が親になって15年。
エルヴィンが生まれて15年だ。
暗くしたリビングに、歌を歌いながらユリアが入ってきた。手にはロウソクに火が灯ったケーキ、バースデーソングを歌いながら。
ケーキが目の前にきたエルヴィンの瞳はキラキラとしている。無邪気な笑顔で火を吹き消した。
リモコンで電気を付けると、エルヴィンの顔が一瞬強ばっていて、散瞳しているように見えた。
何かと思い聞こうとしたが、タイミング良くユリアが「ちょっと待ってて!」というので遮られる。
固まっているエルヴィンに「大丈夫か?気分でも悪いか」と聞くと、ゆっくりこちらを見たエルヴィン。その表情はまだ幼さはあるが前世で……
「ミケ、なのか」
一瞬耳を疑う。今まで、そんな言葉遣いではなかったし、呼び捨てで呼ばれるなんて一度もなかった。
頭から足元に、一気に血の気が引いていくのがわかった。頭から寒さを覚えるようだ。
「ミケなんだろう」
「……まさか……エルヴィン……」
「ああ、そうだ。その様子だと記憶はあるらしいな」
今までの努力が一気に無駄になってしまった。ユリアと同じく記憶に影響無いように心掛けていたのに。
なんという事だ。“再び”会えた喜びよりも、衝撃が強すぎて言葉にならない。
また、また俺は。
ハッと気が付く。一先ず、ユリアには記憶の有無は教えていないことを伝えなければ。
口を開くがまたユリアがタイミング良くリビングに戻ってきた。手にはプレゼント包装されている箱。
まずい、言うなエルヴィン……!
「わあ、その箱は?」
「ふふ、プレゼント!開けてみて!」
プレゼントを見たエルヴィンは無邪気な笑顔を見せる。
「嬉しいよ……!母さん、産んでくれてありがとう!大好きだ!……勿論、父さんもね」
ユリアを抱き締めたエルヴィンはチラリと視線をこちらに向けた。その視線に、胸がぐしぐしと踏み躙られたように痛み、じわりと汗が滲む。
混乱させないようにか、エルヴィンは普段通りに接していた。俺は嫌な汗を一人かきながら、目の前で楽しそうにはしゃぐ二人を見つめたまま動けずにいた。