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エルヴィン裏作品集

第15章 消失



そう聞かれたエルヴィンは、考える間もなく笑顔で答える。

「大切な母を困らせたくないので」

私からすれば100点満点な答えに、ご近所さん達と私は「んまぁ~~」とハートを語尾に付けながら言った。

「本当に爪の垢貰っていい?ウチのボウズに煎じたの飲ませるから」

そう言ったご近所さんの言葉に笑って、長話が再開される前にエルヴィンが「じゃあ、僕は勉強があるのでこれで失礼します。行こう母さん」と自然に連れ帰ってくれた。

出来た息子だ。本当に。


私はエルヴィンと今日あったこと、明日の誕生日には何が欲しいか、なんて話しながら自宅に到着した。


明日で、エルヴィンが生まれた日から15年。

時が経つのは本当に早い。成長期のエルヴィンはあっという間に身長も私より高くなっていた。声も低くなってきて、喉仏が顔を出している。

そんな彼の最近の悩みは、ヒゲが生えてきてしまうことらしい。可愛いな、と手で顎を撫でると「ほら」と上を向いて触らせてくれる。

「誕生日プレゼントは電動のお高い髭剃りにしようか?」

「はは、俺は母さんの手作りケーキが食べられたら充分だから」

冗談で言った髭剃りはやんわり却下された。やれやれ、今年も恒例の誕生日ケーキを作らなければ。しかし、言われなくても準備は万端。エルヴィンもそれを分かっていながら言うのだから可愛い。

仕方ないなあ、とエルヴィンの頭をくしゃくしゃに撫でて一緒に台所に立った。

今年のエルヴィンの誕生日会はテスト期間だということで延期を提案したが、エルヴィンが「誕生日になった瞬間に祝われたい」と言ってきたので今日、誕生日を跨ぐように前日から祝う。

テスト勉強は大丈夫なのだろうか。だがエルヴィンの事だし、きっと大丈夫……と夫婦で妙に納得してOKした。


私はケーキ作りを、エルヴィンは自分の誕生日でありながら「二人も親になって15年だから」と一緒に料理を作ってくれていた。




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