第15章 消失
私達の初めての子、エルヴィンは良い子だ。ミケに似て賢いし、運動神経もいい。それに、よく物事に気が付いてくれる。中学に上がっても全く反抗期は無く、未だに私にベッタリとしてくれて、親バカかも知れないが、本当に良い子だ。
本当に、自慢の息子。
ご近所さんからもよく褒められて、私の鼻も高い。
「ザカリアスさん、こんにちわ」
「こんにちわ」
この地域には10年住んでいる。それなりの御近所付き合いもあるし、不満もない。皆さん優しい方ばかりで良くして下さっている。
私は声を掛けてきたご近所さんと話をし、またひとり、またひとりと加わって話をしていた。
どこの何さんが仕事を辞めた、とか。ゴミの出し方がなっていない人がいる、とか。オススメの整体師さんはココ、とか。他愛ない話。
それをうんうんと聞いていると、話は自分の子の話に。
「そういえば、ザカリアスさんちのエルヴィンくん!本当に日に日にイケメンになってるわよねぇ」
「えっ、そうですか?嬉しいです。主人に似たんですかね」
暗に夫のミケを自慢すると、キャッキャと喜んだご近所さん達は「やだぁ、ご馳走様~」と口を揃えた。
「でも本当に良い子だし、愛想もいいし、賢いじゃない?ウチの子に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」
「分かります~、羨ましい」
「やだ、褒めすぎですよ、そこまでじゃ……」
そう言った時、少し離れた場所から私を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、母さーん」
たった今話題に出ていた、自慢の我が子。
「あらぁ、噂をすれば!」
嬉しそうなご近所さん。
「こんにちわ」
挨拶をするエルヴィンに、周りは余所行きな声で挨拶を返した。自転車を降りて私の手にあった荷物を何も言わずに自転車カゴに入れる。
「今日は早いのね?」
ご近所さんの一人がエルヴィンに言う。
「はい、今テスト期間なので」
「えっ!?テスト期間!あの子また嘘ついてたのね!?もぉ~」
「ウチの子はちゃんと報告はするけど遊びに行っちゃうわよ。エルヴィンくんは遊びに行かないのね?最近の子は遊びに行くみたいだけど」