第1章 秘事は睫
「ま、待ってください・・・!」
再びベッドを降りようとするエルヴィンの服の裾を咄嗟に掴んだユリア。
黙って動きを止めたエルヴィンの背にユリアは小さく呟いた。
「あの・・・私を必ず救い出すと仰っていましたが・・・どうやって?私も団長も、顔は愚か、所属兵団や部隊も割れています。この場から抜け出したとしても、この人は必ず私達を殺しにくる・・・」
ユリアは考えを巡らせ、恐怖や不安に駆られる。
今までの人生に別れを告げなければならないかもしれない。
ユリアの言葉にエルヴィンはユリアにベッドから降りるように言った。
「君は見られたくない、大切な物はどうする」
「・・・隠します、誰も分からない場所に」
「そうだな。だがこの世界には“秘事は睫”という言葉がある」
「“秘事は案外近くにあり、容易には気付かれない”・・・」
「そうだ」
エルヴィンがベッドのマットを剥がすと、鍵のついた棚が現れた。
「・・・ベッドが・・・」
「彼はここに自分の秘事を隠しているらしいな」
「何故ベッドが秘事の隠し場所だとお分かりに?」
「・・・聞きたいか?先程の行為よりも少し刺激の強すぎる話かもしれないが」
目が笑っていないエルヴィンにユリアは「結構です」と怖気て、エルヴィンが屈んで鍵を開け始めるのを見入る。
中には様々な“道具”や、書類が入っており、エルヴィンはその中にある書類を読んでユリアに手渡した。
読めば、人身売買と競り会場での記録、そしてそれには全て公爵の指印が押してあった。
「これで、公爵は言い逃れも、君を殺すことも出来ない。これは君の手柄だ、出来るだけ早くナイルに報告しに行こう」