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エルヴィン裏作品集

第11章 契約者




今から三十余年前。

生まれたばかりのエルヴィンが乳母車に乗せられて母と散歩から帰宅している所を空から見る、人では無い、黒い影があった。

人間らは姿を見ることは出来ない。

黒い影は空から舞い降りて近付く。散歩から帰宅してひと段落する母に近付き、耳元でこの世の物ではない言葉を囁けばエルヴィンの母は眠った。

ただ、眠ったのでは無く、魂を吸い取られた、というのが正解だろう。エルヴィンの母はこの黒い影、悪魔であるユリアに殺された。

乳母車に乗せられたエルヴィンに近付くと、エルヴィンは目だけを動かしてユリアを見た。

「可愛い坊や。あなたは私の物になる……必ず」

そう呟いて剣で手の平を切ると、エルヴィンの口にその血を落とした。

「運命からは逃れられないんだ」

他の悪魔を寄せ付けない、所謂マーキング。
エルヴィンはちゅぱちゅぱと口元を動かすと、落とされた血をその体に取り込んだ。



その十余年後、次はエルヴィンの父。父がある仮説を立てていると噂を流したのはユリアだった。憲兵への密告。中央第一憲兵で若き日のジェル・サネスと共に、実在するその道の手練の憲兵に化けて拷問をした。とどめを刺したのも、ユリア。


そうしてエルヴィンを独りにした。



葬儀の夜。
悲しみや後悔の中、父の書斎で涙を流すエルヴィン。

ユリアは本棚から、一冊の本を引っ張り出し、落とす。あるページを開くようにして。

驚いたエルヴィンはランプを手に近付き、ページを見入った。

それは悪魔を呼び出し、契約する方法。幼いエルヴィンは、“願いを叶える”の文字に魅せられ、呼び出した。

幼い子どもでもすぐに実行出来た。父が使っていたチョークで魔法陣を書く。そして飼っていた鶏の首を切り、ボウルに血を。そしてその死体を並べる。

本を手にして呪文を唱えると、ユリアがエルヴィンに視えるようになった。

「っ!!」

目の前に現れた得体の知れぬ者に、エルヴィンは体を強ばらせて凝視する。

ユリアは白々しく「私を呼び出したのはあなたね」と言えば、エルヴィンが首を縦に振って答えた。



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