第11章 契約者
「これであなたの魂は私のものになる。さあ、一緒に……」
ユリアがエルヴィンに手を伸ばすが、エルヴィンが「待て」と制した。
「……また駄々っ子?」
「ああ、そうだ。最後にひとつだけ願いを聞いて欲しい。対価は……お前が望む事を」
「……私の使い魔になりなさい。そうすれば叶えてあげるわ」
ユリアに言われたエルヴィンは、返事をしてユリアが渡してきた契約書にサインした。
「あの世もこの世も書面とはな。もう自分の名前を書くのも最後にしたいよ」
「はは、あの山のような書類ね」
ユリアが手にしていた紙が、持っている場所から燃えて消えた。
「これであなたは私の使い魔。何かに触れてみて」
「……触れるのか」
エルヴィンはベッドに横になっている遺体に覆われたフードを退ける。そこにはやはり自分が目を閉じて眠っていた。
「……案外、気持ち悪いとも感じないものだな」
「それは悪魔に落ちたからよ。今から早速“回収”しに行かなければいけないけど、きっと何も感じない」
「回収、か」
ユリアが家の壁を通り抜けて行った。その後を先程は通り抜けられなかったエルヴィンが続くと、簡単に外に出ることが出来た。
ユリアの言う回収は何度か目にした事がある。
死者の魂の回収。天使が来る前にゴッソリ持っていこうという算段なのだろう。
前を飛ぶユリアに着いて行く。ユリアのような羽が生えていないが飛べるようで、立体機動が無くとも聳え立つ壁の上に立つことが出来た。
「……」
戦いの跡。
無数に転がる死体。かつて馬だった、人間だった物。
「皆……すまない」
「謝ったって仕方ない」
悪魔の人間の姿は仮の姿で、本来の姿になって回収をするらしいがユリア程の高い階級の悪魔であればそのまま回収出来るようだ。
昔一度見た事があるがエルヴィンでさえ恐怖した。しかし今は彼女に仕える身になったからか、もしくは大人だからか恐怖は感じずに回収を見守っている。
「……そういえば、あなたの叶えたい事は何。私に仕えてまで叶えたい事は」
「……ああ、それは……」
エルヴィンはユリアに告げると、ユリアは興味無さそうに相槌をうった。