第11章 契約者
あれは、俺か。古い家屋の暗い部屋で、エルヴィンは立ち尽くし、ベッドに横たわる人間を見下ろしていた。
「本当に幽霊がいるとは」
幽霊というスピリチュアルな物は信じない質だったが。
そんなことよりも。皆は。奇襲作戦より少し前から記憶が無い。獣はどうなった?ここに横たわっているのは恐らく自分だ。何故自分だけここに横たわらせてある?
エルヴィンは様々な情報を脳内に行き交わせるが記憶もないので処理が追いつかず。触れられもしない家具や自分であろう遺体や物体たちに溜息を吐いた。一体どうすれば。とりあえず家屋から出ることにするが出られない。部屋全体がまるで壁のような……
眉をひそめていると、背後にぬらっとした、不穏な気配を感じ、振り向いた。そこには黒い影。巨大な鳥のような。黒い羽根がばさりと開いた。翼の中には兵服を身に纏った若い女。
「エルヴィン」
「……ユリア」
エルヴィンはその女を知っている。エルヴィンが幼い頃に契約した悪魔である。
「見たか、俺の最期を」
「ええ、しっかりとこの目に焼き付けておいた。あれだけの野心を燃やしておきながら、呆気なかったわ」
「……そうか」
ユリアは、悪魔の中でも高い地位にいる悪魔らしく、幼い頃にエルヴィンに目を付け、死後の魂の讓渡とを条件にエルヴィンの夢を叶えるべく契約を結んだ。ユリアはエルヴィンに従順に従い、彼に尽くした。
貴族の不正の証拠をいとも簡単に入手し兵団の資金を集めなど、エルヴィンが拷問される等多少痛めつけられはしたが、物事が上手くいくように手助けをした。