第9章 夫婦の在り方
「……すまない、タバコを一本頂けないか」
「ああ、構わない」
差し出されたタバコ。ライターで火を付けてきたリヴァイに礼を言って吸う。苦い味が口に広がった。
「……電子タバコじゃないんだな」
「……ああ、若い衆は電子タバコにしろと言ってきたがアレはクソみてぇな臭いがするし、クソみてぇに不味い。アレを吸うヤツらの気が知れない」
「はは、確かにアレは酷い臭いだ。気が合うな。……君、さっき会議に居たよな、私はエルヴィン・スミスというんだ。よろしく」
タバコを咥えて手を差し出す。
リヴァイが「エルヴィン……」と小さく呟いて、一瞬体の機能が止まるのをエルヴィンは見逃さなかった。
「エルヴィン、いい名だ。俺はリヴァイ・アッカーマン」
白々しく答えたリヴァイは握手を返した。
心做しか、彼の目付きが変わった。
「……最近、妻に逃げられてしまってな。一緒に飲む相手がいなくて寂しいんだ。……これも何かの縁だ、良かったら飲みに行かないか」
「はっ。出会って数時間、話して5分の野郎相手にナンパか?そりゃ嫁も逃げたくなるな」
「まあそう言うな。私の奢りなら良いだろう、どうだ?」
「悪くねぇが……俺も最近結婚した所帯持ちでな。家で可愛い嫁さんが飯作って待ってる。悪いが今回は遠慮させて貰う」
所帯持ち?可愛い、嫁さん?左手にリングはない。
エルヴィンは横目に見ながら、今にも殴りそうな気持ちを鎮めながら話を続けた。
「……そうか、じゃあまた機会があれば是非。あ、タバコ、ありがとう」
「ああ、気にするな。……また次の機会に」
エルヴィンは喫煙室を去る。
名前も会社も、部署も割れた。
画面の中で乱れるユリアを思い出し、勝手に股が膨らみ始めた。
「ユリア、必ず……見つけ出して……」
帰ってくればいいと思っていた筈の心は、リヴァイに会ったが為に揺らいだ。こんなにも目と鼻の先とは。
エルヴィンは会社が終わり次第直ぐにリヴァイの会社へ向かい、跡をつけることにした。