第9章 夫婦の在り方
「今回、Twitterの募集に応募した……ユリアだな」
男の声がした。募集とは?エルヴィンは息を潜めて見る。
「……はい」
カメラが揺れ、ユリアの顔を手が掴んだ。
眉をひそめてカメラ越しに撮影者を見ているユリアは、泣いたのか目が潤んで鼻も赤い。
「見ている旦那に見えるようにしろ」
「はい」
目線が落ち着かぬユリアが胸元に手を上げて、紙をカメラに向けた。
「読め」
「……“契約書”……」
ユリアが読上げたのは契約書。
その内容は、ユリアがTwitterで見つけた、“調教師リヴァイ”という男にこの1ヶ月間で調教して貰い、リヴァイの手に堕ちなければクリア、帰宅出来るというもの。
ユリアの体調面への気遣いや生活面に不自由もさせないこと、“本番”である性行為はしないと約束していること。帰宅後、互いに他言もしないしどこかで会っても他人のふりをすること。
そして妻であるユリアが冷え切った旦那の今後の人生の為にとこのDVDと一緒に送った離婚届にサインしておくから、離婚するかはDVDを観て判断して欲しい、とのことであった。もちろん、観ずに判断してくれてもいい、と付け足された。
「旦那の名前は」
「……エルヴィン、です」
「エルヴィンか。こんなにいい女を放っておくとはな。エルヴィンよ、今からコイツを調教する訳だが、俺からユリアにささやかなプレゼントをした。……見せてやれ」
ユリアは「えっ」と零して動かない。リヴァイが舌打ちをして上の服を捲った。
大画面のテレビに、卑猥な下着を付けたユリアの胸が映し出される。二年ぶりのユリアの胸。ユリアが普段手にしないようなデザインだ。思わずエルヴィンは息を飲んでじっと見つめた。
「似合ってる、旦那はこういう下着は好きじゃないのか?」
「分かりません。触れ合いもないので……」
「ああ、セックスレスだったな。悪い」
悪びれる様子のない謝罪を口にして服から手を離し、頬に手を添えて親指で唇を撫で、口にゆっくりと指を進めていく。
「……じゃあ1ヶ月、よろしくな。ユリア」
そういって映像は終わった。