第8章 痴漢、ダメ、絶対。
【2日目】
今日も電車で通学。
ユリアは音楽を聴きながら人の流れの中を移動していた。降りやすいようにと最後に乗る。今日は駅員が押さずともギリギリ入れた。そこから電車に揺られて学校最寄りの駅に到着した。
通学中、前の方を担任であるエルヴィンが歩いているのに気が付いた。
「は……」
息を吐きかけて止める。胸がぎゅっと締め付けられた。
ユリアはエルヴィンに恋をしている。
今日も好きです、なんてクサいセリフを心で呟き、ユリアはエルヴィンの少し後ろを歩く。
エルヴィンが歩きながらカバンを漁る。何か食べながら歩いているようだ。ああ、カバンの持つ手が不安定だ……書類が……落ちた。
ユリアは進んでいて自然に縮まった距離で、イヤホンを外してからエルヴィンの書類を拾った。
「ああ……カルデリア。ありがとう、助かるよ。あ……おはよう」
手にはサンドイッチ。照り焼きチキンの。
可愛くて小さく笑ってしまう。
「はい……、おはようございます」
口元に照り焼きのソースが付いている。
ティッシュを差し出すと、残りのサンドイッチを口に頬張って礼を言われる。拭きながら自然に一緒に歩き出した。
「恥ずかしいな、いい歳したオジサンが」
「オジサンじゃないですよ」
オジサンなんて思わない。こんなに綺麗でカッコイイんだから。
先生、カッコイイ。大好きです。
「先生はオジサンに見えないし、カッコイイからみんな先生が大好きです」
「はは、朝から照れるな……あ、まさか内申点上げようとしてるのか?」
「ふふ、バレたか」
朝から幸せだ。二人で一緒に通学出来るなんて。でも先生……いつもここでは出会わないのにな。
「先生、何故今日はここの道に?」
「引っ越しが一昨日の日曜日に終わったんだ。場所も前より学校に近い場所になってな」
「へえ、電車通ですか?」
「ああ、満員の電車に乗って通勤するのが小さな夢だった。だがなかなか大変だな、満員電車は。クタクタだよ」
はは、と苦笑いするエルヴィン。その顔をユリアは見上げながらうっとりしていると、徐々に学校が見えてきた。後ろからクラスメイトが声を掛けてきて、結構な人数での通学になり、エルヴィンとの二人の時間は終わった。