第1章 秘事は睫
エルヴィンからのキスは優しいもので、お互いに不本意ではあるが気遣いを感じる。
「エルヴィン」
公爵の呼び掛けにエルヴィンが手を止める。
「丁寧に“仕上げて”くれよ。私も改めて頂くからな」
「・・・はい」
またエルヴィンが近付き、ユリアの首筋にキスをした。擽ったいその場所は嫌でもユリアの喉奥から甘い吐息を吐き出させる。
「エルヴィン、団長・・・」
呼べば顔を上げて美しい瞳と視線が合う。
話すことさえ初めての今日、まさか体を交わらせることになるとは。
「どうした」
「いえ・・・申し訳ございません」
咄嗟に謝れば、エルヴィンが耳元で公爵に聞こえぬように囁く。
「こちらこそすまない。・・・時が来れば、必ず君をここから救出する。それまで少しだけ辛抱してくれ」
そう言ったエルヴィンの横顔は、真剣なものをしていた。
エルヴィンがこの行為を受け入れた理由は調査兵団全体のことが関わっているから。ユリアはあの会話ですぐに理解した。当たり前だ。一人の下っ端兵士の貞操と兵団の兵士の命では、どちらを優先させるかは一目瞭然。
ユリアは理解している。エルヴィンの謝罪の意味も。
そして垣間見えた、ユリアの肌に触れる時の彼の優しさも、理解した。
「君の事はナイルからよく聞いているよ、ユリア・カルデリア上等兵。とても聡明で勇敢な兵士だと。ナイルは君に絶大な期待をしているようだ」
「は・・・光栄です・・・、でも今は・・・そんな話・・・」
「だがこの話をしたら少しだけ力が緩んだ。会話を続けよう。セックスはリラックスが大切だからな」
年上の言うことは聞くべきだぞ、とエルヴィンは微かに微笑んだ。
「・・・承知致しました、団長が仰るのなら・・・従います」
「いい判断だ」