第2章 キスまでは、あと少し
駅を出て、体育館までひたすら走る。
ヤベーよ、もう11時半過ぎてる!
何の連絡もなしに30分遅刻とか、最悪な彼氏じゃねーか!
怒ってるかな…小雪…。
風を切ってグングン流れていく景色。
たぶんこれ、俺史上最速の走り。
バレーで体鍛えてて良かった…なんて余計なこと考えている中、前方に誰かがうずくまっている姿が目に留まる。
何!?病人!?
全力で走っていた足を止め、屈んで顔を覗く。
「どうしました!?」
「……もう、ダメ…」
「え」
ていうか、待って。この人の腹…
顔に汗をかいた女の人は、息も絶え絶えに苦悶した声で言う。
「産まれる…!もうそこまでキてる…!!」
やっぱり!?妊婦だ!!
ナニコレほんと!漫画でしか読んだことねーよ、こんな展開!!ていうか、キてるってナニ!?子どものこと!?どうすりゃいいの!?
お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー!?のヤツ!!
…って、こんな時に限って誰も通んねぇ!!
「タクシー!タクシー呼んで来るんで堪えてください!」
「無理、かもぉ…!この子5人目の子だからっ…、たぶんもう、産まれちゃうっ…!!」
5人!?スゲー!!
「頑張って!!とにかく!!」
頑張れるもんなのかわかんねーけど、もうそれしか言えない!
広い通りまで出て速攻タクシーを捕まえ、さっきの妊婦さんのとこに戻る。
よかった…!産まれてない!
運転手のおっちゃんと一緒に妊婦さんを支える。
なんとか車内に乗せ終わると、すぐ様タクシーは走り去って行った。
すっげぇ焦った…変な汗掻いたし…。
当然のことながら、産気づいた妊婦に遭遇するなんてこれが人生初…。
「はあぁぁァ…っ」
胸を撫で下ろしつつふと視線を落とした先に、何かが転がっている。
ハートみたいな形した…ああ、マタニティマークってやつだ。さっきの女の人のだよな。
とりあえず拾い上げてみるけど、コレどうしよ…。
「ハッ…!てか何時!?…っ!!」
マジでヤバイ!!
時計の文字盤は、既に12時。
今度こそ、待ち合わせ場所へ!!
「うわぁぁんっ!ママぁ〜っ!!」
…と思った途端、辺りに響き渡る甲高い泣き声。
振り返ってみると、そこには一人佇む小さな女の子が…。
…次は迷子?
俺、もう振られちまうかも……