第2章 キスまでは、あと少し
*黒尾side*
『夜久。俺、今日知ったわ。女神って、ああいう姿かたちしてんだなって』
『また厨二発動か?メンドクセー』
『あの子誰?名前なんてーの?』
『誰のことだよ』
『絆創膏貼ってくれた子ですぅー!』
『ああ、天宮さんね』
『下の名前は?』
『名前…?何だっけ?』
『クラスメイトだろー!?』
『まだクラス替えしてから二日だぞ?覚えきれねーよ』
高二の春。たまたま話し掛けた、夜久のクラスの女子。
絆創膏持ち歩いてるような女らしいとこ、さりげない優しさ、素朴な容姿、白い肌、柔らかそうな頬っぺた、ふわサラな髪の毛、小さな手…。
あの日の彼女はいつまでも心の中に棲みついたままで…
しばらく経って俺は、それが恋だと気づいた。
何かと理由をつけて夜久の教室へ行き、それとなく目で追ってみたり。
何故か夜久と仲良くなったっぽいから、それに乗じて話しかけてみたり。
俺に出来たのは、せいぜいそんくらい。
夜久にはヘタレ呼ばわりされたけど、仕方ねーんだよ!これには事情がある!
自慢じゃないが、俺ってば結構モテる。
(これ言ったら夜久に回し蹴りされた。理不尽!)
一年の頃、ひとつ上の先輩に告られてちょっとだけ付き合ったりもした。
ただ、女子の方から好意を示されることはあっても、好きな子相手に自分からどうこうするってのは正直初めてで…。
キモイとか思われたら軽く死ねるし、ましてや嫌われたくないし。
色々考え過ぎて、尻込みしてしまっていた俺。
そんな中訪れた、春高予選。
思いがけず会場に応援に来てくれていた天宮。
更には誕生日だからって、手作りのクッキーまでプレゼントしてくれた。
こんなの、好きな気持ちが振り切れちまっても仕方がない。
手順を踏んでから…とか、心の準備が整ってから…だとか、俺の頭からは告白への躊躇いなんて一瞬で消え去った。
気づいたら口にしていた、「好き」―――。
天宮がそれに応えてくれたのは、まさに夢のようで……
俺と天宮は、あの日を境に恋人同士になった。