第2章 キスまでは、あと少し
新しいクラスにはすぐに馴染んで、足グセの悪い夜久くんとは、"夜っ久ん" って呼べるくらい仲良くなった。
夜っ久んに用事なのか、時々フラッとうちのクラスにやってくる黒尾くん。
自然と話すようになるうちに、どんどん気になる存在になってきちゃって…
校内で黒尾くんを見掛ける度、無意識にその姿を目で追ってしまう自分がいた。
いつの間にか私は、黒尾くんに恋をしていたのだ。
3年生のクラス替えでは、念願の同じクラスに。
夜っ久んに背中を押されつつ、勇気を出して出掛けた春高予選。
たまたま黒尾くんの誕生日だったこともあり、手作りのクッキーを渡した。
喜んでくれただけでも嬉しかったのに、まさかあの日、あの場所で、黒尾くんから告白してもらえるなんて。
―――………
「小雪、待たせてごめんな。帰るか」
「うん」
鉄朗くんと付き合えるようになったことは、いまだに信じられない。
もうすぐ卒業の私たち。
こうして学校で過ごす時間も、あと僅か。
「小雪さーん。何か手がサミシー」
教室を出て並んで歩いていると、鉄朗くんの手がプラプラと私の目の前で揺れる。
手を繋ごうってこと…だよね?
「学校では恥ずかしいよ…」
「え、俺と付き合ってるのが恥ずかしいってこと?ショック死しそう…」
「違う!鉄朗くんの彼女になれてすっごい幸せだよ、私!みんなに自慢したいくらい!」
変な誤解してほしくなくてそう言えば、鉄朗くんは照れたようにポリポリと頬を掻く。
「そーいう可愛いこと、平気で言うんだもんなぁ小雪は。じゃあ校門出たら繋いでヨネ?」
「うん」
みんなに自慢したいっていうのは本音。
手を繋ぐのにも慣れてきた。
……けど、学校の中では勇気がいる。
だって鉄朗くんのファンの子に恨まれそうだし…。
どれだけ自分がモテるのか、わかってる?
鉄朗くんは何をするにもスマート。
ナンパされて困ってたらサラッと助けてくれるし、初めて手を繋いだ時もすごく自然だったし、こんな平凡な私のことを "可愛い" なんて褒めてくれる。
きっと、女の子の扱いに慣れてるんだよね…。
それなのに、どうしてだろう。
私相手じゃそんな気になれないのかな…。
付き合って三ヶ月。
私たちはまだ、手を繋ぐ以上のことをしていない。