第2章 キスまでは、あと少し
*夢主side*
彼と初めて話したのは、新学期が始まったばかりの2年生の春。
鉄朗くんが私のクラスの教室に、夜っ久んを探しにやって来たのがきっかけだった。
『すんませーん、今日って夜久休み?』
『え?』
出入口の扉のそばで声をかけられた私。
振り返った先に映ったのは、制服の紺色と赤いネクタイだけ。
視線を上へ上へ持っていくと、ツンツン髪を立てたちょっと怖そうな男子が、私を見下ろしている。
『……』
この人知ってる…。
女子たちが時々騒いでるもん。バレー部のクロオくん、だよね。
近くで見たの初めて…。
すご…、こんなにおっきいんだ…。
何だか別次元の人のようで、思わず固まった。
『ん?夜久わかんねぇ?夜久衛輔。ちびっこくて目ぇクリクリの女みてーな顔した…』
『黒尾てめぇっ!ぶっ飛ばす!』
『何だよ、いんじゃん。小せぇから見えなかっ、グワハァッ…!!』
……えっと…、
大丈夫…かな…?
夜久くんの蹴り、黒尾くんのみぞおちに入ったけど…。
『や"っく"ん"…っ!!ほんと足グセ悪いの何とかして!いってえぇっ、手ぇ擦りむいたし!俺のゴッドハンドがあぁぁっ!』
『黙れ厨二。舐めときゃ治る』
尻餅をついた拍子に手を怪我したみたいで、涙目で抗議する黒尾くん。
意外だった。
遠目で見たことのある黒尾くんは、いつもクールな感じで大人びてて。
ひとつ上の綺麗な先輩と付き合ってる、なんて噂も聞いたことある。
つまり、こんな風に同級生とじゃれ合うイメージなんてなかった…。
『あの、大丈夫…?良かったらこれ…』
ポーチから絆創膏を取り出して、黒尾くんに差し出してみる。
体を起こしつつ私を見る瞳が、少しだけ見開かれた気がした。
『…あざっス』
『いえ…。あ、片手じゃ貼りにくいよね。やろっか?』
手の中の絆創膏を剥がして、少し皮の捲れた黒尾くんの手のひらにピタリと貼りつけた。
『サンキュ…』
『ううん…』
至近距離で目が合う。
わ…、わ…、わ…っ、
や、うそ、かっこいい…!
どうりでモテるわけだ…!
自分の顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
何だか急に恥ずかしくなっちゃって…
『えっと、お大事に!』
私はその場から逃げるように、そそくさと立ち去った。