第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)
黎明はそれを避けようか迷ったが、事をこれ以上荒立てるのも後々面倒が出るかと一歩引くだけに留まると掴まれるのを覚悟した。
どろりとした霊気がまとわりつく様に黎明の足元に広がる。あと数センチ、という所で不意に誰かが伸ばされていた女性の手を掴み、その動きを止めた。
黎明が女性の手を掴んだ手を見やり、その先を手首、肘、肩と辿るとそこには無表情のまま、温度のない視線で女性を見やる先ほどの男性――明石国行が居た。
「放しなさい、明石国行」
「俺はあんさんと契約してませんから、真名を言われても効きません」
「っ……良いから、放しなさいよ!」
バチッ、という派手な音と共に審神者が明石の腕を振りほどき、明石の頬には一本の赤い線が出来上がった。
伸ばされていた手を思い出せば、その線の原因は明らかで黎明の方が痛そうな顔をして腕の中のこんのすけもぺたりと耳を伏せてやはり心配そうな表情をしていた。
一人と一匹にその自覚はないが線の出来た頬に軽く手を当てた明石がチラリとその様子を見て、ふっと口元を綻ばせたのを本丸の審神者である女性が見咎め苛立ちを募らせていく。
なんで、どうして、そんな声が今にも発せられそうなほどに張りつめた女性が、キツイ視線を黎明に向けるのと明石がその間に立ちふさがってその視線を遮るのはそれほどタイムラグはなかった。
「……何なのよ」
「主はんはこの子の先輩はんなんでしょ? せやったら、最初からそんなんではあきまへんのとちゃいます? この子はまだ何もしてはりませんよ?」
「……分かったわよ。部屋に案内するわ、明石、貴方はついてこないでちょうだい」
「……今は、引きましょか」
黎明には目の前のやり取りの理由に思い当らなかったが、少なくとも明石が女性に向けられた黎明への敵意を途中で遮ってくれていることは理解出来た。
睨みつけている間は決して動こうとしない明石に焦れた女性が舌打ちと共に踵を返すのと、明石がそっと場を避けて黎明にその後を追いかける様促すのはほぼ同時だった。
促された黎明が一歩歩き出しながら振り返ると、楽しげな笑みを口元に浮かべた明石がひらりと手を振って見送っていたので軽く会釈をして女性を追いかけた。