第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)
黎明の声に男性が立ち止まって振り返る。先ほどまでの気怠い雰囲気はなく、警戒した猫のような鋭い気配と能面のような無表情。応えた声も低く、剣呑とした雰囲気が漂っている。
帯刀していないとはいえ、この本丸の者であれば審神者でなければ刀剣である。女一人、簡単に殺せるだけの腕を持っていることは間違いないだろう。
けれど、黎明はそれらの雰囲気に僅かたりとも恐怖を感じはしなかった。ただ、何かに突き動かされるように内に沸いた確信に、男性を見据えて言葉を発していた。
「そのままの意味よ? ここは一つの霊気に染まってるのに、貴方にはそれが一切混じっていない」
「ふぅん? 見えはるお人ですか。それで、混じってへんやったら何かありますん?」
「ある、ともない、とも言えないわね。気になっただけですもの」
「……ククッ、面白いお人や。せやねぇ……あんさんの質問にはそう、ともそうでない、とも言えるとだけ……。ほな、もうちょい大人しゅうしとってくださいね」
無表情で居た男性が黎明の言葉に一瞬きょとんとした顔をした後、吹き出しお腹を抱えて笑い出した。
何かを気にしているのか声を押し殺し方を揺らして笑った男性は、落ち着くとニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべ黎明を見た。
その眼には面白い玩具を見つけたような、そんな色が浮かんでいる。そして、先の黎明の言葉を真似た返事を返すと今度こそ踵を返し歩き出す。
ひらりと振られた手が楽しげに見えたのは、黎明の気のせいなのかどうか……。