• テキストサイズ

黎明即起

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


「ご、ご丁寧に! ぼ、僕は、五虎退です。退けてはないです」
「退ける?」
「あっ! そのっ、い、今は、あの……あ、あるじさまのところに居るのですが、僕と一緒に居る仔虎が五頭ほどいるんです」
「なるほど。五頭のトラを退けたのが名の由来ということですね。実際に虎を連れていらっしゃるのですか?」
「は、はい。でも、もうずっと一緒には」

何を?と首を傾げた黎明に、直ぐに理由に気付いたらしい五虎退が説明をするのを聞いて納得した様に頷く。
子供の虎とはどの程度の大きさなのかと興味はそそるが、後ほど見せてほしいと頼む前に何故か肩を落とした五虎退の落とした呟きに僅かに眉を寄せる。
顕現した際に共に現れたなら仔虎とて五虎退の一部じゃないのだろうか? 疑問に思うが本人の様子に直接問うことも出来ず、首を傾げるとゆっくりとした動作で立ち上がる。
そっと五虎退に近づいて目線を合わせるために屈むと、ビクリと身体を跳ねさせたので黎明も身じろぎをせず落ち着いた視線を向けてただ待った。
助けを求めるように周囲を見た五虎退は暫くきょろきょろと視線を走らせていたが、やがて意を決した様に黎明へ向き直ると恐る恐る視線を合わせてきた。
絡んだ瞳は本来なら澄んで綺麗な琥珀を思わせる飴色なのだろうが、どんよりと淀んで濁っていた。憂いを帯びたと言い表せばまだ聞こえは良いが、明らかに疲弊と怯えを纏うそれをただ真っ直ぐに受け止める。
五虎退は覗き込んだ黎明の澄んだ翡翠の様に美しい碧に引き込まれる様に、じっと見つめるとやがてぱちりと瞬いた瞬間に我に返ったように顔を真っ赤にして仰け反った。

「五虎退様?」
「あっ! えとっ! ご、ごめんなさい! あ、朝餉! 朝餉頂きたいです!」
「はい、承知しました。今器によそいますからお好きな席へお座りください」

黎明は五虎退の反応に何も言わなかった。ただ、朝餉を口にしたいと望まれて微笑むと、何も言わず、何も問わず、けれど一度だけ立ち上がった瞬間に触れるか触れないかの位置で五虎退を一撫ですると鍋の方へと歩いて行く。
そのかすかな触れ合いに惚けた様に立ち尽くして黎明を見上げていた五虎退は、やがて粥の甘い香りを立ち上らせた椀を手に呼ぶ黎明に気が付いて慌てて駆けて行くと黎明にほど近い席で座って粥を食べ始めた。
/ 24ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp