第15章 馬と鹿とそれから獅子と
すぐ隣のロッカーを、勝己が思い切り蹴り上げる。
「……退けつってんだろ死にてぇのか」
「おい勝己、今のはどう考えてもおまえが悪いだろ!?出久とおれをいじめんなよ泣くぞこの場で……ってお前すごいなそのコスチューム。手榴弾!全身武器かよ。でもその頭の後ろのやつ好きだわ。それ刺さる?それも武器なの?」
「ああ?まずはてめぇから刺し殺してやろうか」
「ヒーローというかもうヴィランじゃねぇか。怖いわ。あ、切島のもすげーいいな!肩のパーツが歯車みたいでかっこいいし、マントもいい。漢!って感じだな」
着替え終わってその場で体を動かしていた切島が、こちらを向いてパッと破顔した。
「分かるかこのロマンが!」
こちらへ向かって小走りでやってくる様はまるで大型犬のようだ。
「九十九はどんなコスチュームにしたんだ?」
「おれはほら、発動系だからさ。やっぱりギミック多めで……お?」
ケースを開いた途端、九十九が固まった。出久が横から身を乗り出して、九十九の手元を覗き込む。
「どうかした?……うわあ!これ、ライオン!?」
「そう、翼の生えたライオン、を、イメージして……つくってもらったんだけど」
九十九は恐る恐るヘルメットを手に取った。
「うわ、すっげえな!これ着ぐるみか?」
ライオンを模したフルフェイスのヘルメットを依頼したはずだが、確かにこれはどう見ても着ぐるみの頭部だ。現実に頭が追いつかない。戦闘?なにそれ?と言い出しそうなぽやっとした顔のライオンの生首がこちらをじっと見つめている。
「ゴフォッ!!!」
耐え切れなくなって盛大に噴き出した九十九を、男子生徒たちがわらわらと取り囲む。笑い死にそうになりながらヒィヒィと浅い呼吸を繰り返す九十九の肩を切島がバシバシと力強く叩いた。
「すげぇ思い切ったデザインにしたなお前!」
「かっこいいというかかわいいって感じだよな」
「ダセェ」
「これ来て戦闘訓練できんのか?すっげぇ重そう」
観衆に見守られながら、笑いすぎて涙目の九十九が震える手でケースから首から下のコスチュームを引っ張り出す。案の定、下も着ぐるみだった。
「ブハッ!!!ちょ、ちょっと待って期待を裏切らない……ぜ、全身着ぐるみやん……めっちゃウケるもうだめ」