第15章 馬と鹿とそれから獅子と
時間がなくて最低限のことしか確かめる暇がなかったけど、このまま実践に突入することになるんだろうか。戦闘訓練が始まる前に他の機能も試す時間があるといいけど。掌についた肉球を握り込みながら拳を作る。よかった。掌部分の素材は薄くなっているみたいだ。これなら問題なく個性を使えそうだ。
「ヤバイのが来たなと思ったけど、意外といけるなこれ」
「馬鹿には似合いのコスチュームじゃねぇか」
「これは馬でも鹿でもなく獅子だぞ勝己。百獣の王ライオンだ」
「んなこたぁ分かっとるわ!おちょくってんのか!」
「あ、出久靴紐解けてる」
「聞けや話を!!なに無視しとんだコラ!!」
「ほら出久、怖いおじちゃんは置いておいて早く行きましょうね」
「う、うん。いや……うん」
靴紐を結び終わった出久の背中を押して更衣室を後にする。もう残っているのはおれたちだけだ。ぎゃんぎゃんとがなり立てる凶暴な幼馴染は置いておこう。これ以上時間を取られるわけにはいかない。
足早にグラウンドへ向かう道中、歩く度に足に何かがぶつかっているような気がして振り返ると、尻尾の先にバニーがぶら下がっていた。
「コスチューム気に入った?」
尻尾を持ち上げて掌で掬い上げると、バニーは満足げにおれの指を抱きしめた。
「そっか。ならよかった」
ポーチから顔だけ出して揺られているバロンとタイガーも、いつもより機嫌が良さそうだ。要望に書いておいた、ヌイグルミたちのためのポーチ。中身のデザインは当事者であるヌイグルミたちに考えてもらった。きっと、自分たちの考えたものが形になって嬉しいのだろう。
グラウンドβには、入試のときのような擬似市街地が広がっていた。出口に集まったみんなの後ろに並びながら辺りを見回す。ここで戦闘訓練をするのか。あのときと同じように、ロボットが相手なのかな。0Pのやつが出てきたらキツいぞ。
「始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
グラウンドに、オールマイトの高らかな声が響き渡った。