第2章 運命の朝は憧れと共に
雄英高校ヒーロー科。そこはオールマイトやエンデヴァー、ベストジーニストを始めとする一流ヒーローたちを数多く輩出してきた名門校だ。その実績もあり、雄英のヒーロー科は全国で最も人気で難易度も高く、その倍率は例年300を超える。ヒーローを目指す子供たちの憧れの学び舎だ。もちろん九十九もその例に漏れず、ヒーローに憧れる者として受験を決めたわけだが、近年の試験の傾向は、彼には少々不利なものだった。九十九の個性はモノに命を与える「付喪神」。元来戦闘向きの個性ではない。だからこそ、ヒーロー科を受験しようと決めてからというもの、養父である俊典と訓練を積んできたのだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫さ!やれることは全部やっただろう?あとはぶつかるのみだ!」
俊典が九十九の肩を叩いて激励した。その衝撃でマグカップの中身が縁から溢れそうになり、九十九は慌ててコップに口をつけて一気に飲み干した。濃厚なチョコの甘味が口いっぱいに広がって、ミルクの優しさと共に体に染み渡っていく。ひとつ嚥下する程に、緊張がまるでマシュマロのようにとろりと溶けて落ちていった。
「練習の成果、派手にぶつけてきます!当たって砕けろ!」
「んん!砕けたら不味いな!でもその意気だぞ!」
カチリと小気味いい音を立てて、長針が12を指した。
「ぎゃあ!出番!」
「出番?」
弾かれるように立ち上がった九十九は、荷物を引っ掴んで慌ただしく玄関へ走り込んだ。