第2章 運命の朝は憧れと共に
「体操服は持ったかい?」
「はい」
「ハンカチとティッシュは?お財布も持った?」
「はい、持ちました。って心配しすぎです俊典さん。小学生じゃないんですから!」
「ごめんごめん」
学ランに身を包んだ少年の頭を撫でながらにこにこと微笑む俊典は、次の瞬間見違える程のマッスルボディへと変化した。頭にかかる重さが増したのを感じて九十九の口元が緩む。
いつもの俊典さんもかっこいいけれど、やっぱりこの姿は格別だ。
パツパツになった白いTシャツは玄関の小窓から差し込む光で淡く輝き、絵画のような筋肉の陰影を更に色濃く見せている。笑みを浮かべた口元は歯磨き粉のCMに出られそうな程真っ白で、まるで宝石のようにキラリと眩しく輝いていた。全体的に眩しすぎる光景に、九十九は思わず目を覆った。皆が憧れるヒーロー、平和の象徴、そして九十九が幼い頃から大好きだったオールマイトの姿は、民家の玄関にはやや不釣り合いだ。
「くぅ~!この間までこんなに小さかったのに!」
俊典が人差し指と親指の間に作った1cm程の隙間を、九十九はぶすっとした顔で見た。
「ウソウソ!冗談だって!な!」
慌てたように大きな腕を振った彼は、わざとらしくゴホンと咳き込んだ。
「何があっても諦めずにここまで来た君の努力は何ものにも変え難い。ヒーローへの道は決して楽じゃあないが、九十九君、君ならきっとやり遂げられる。君の頑張りをずっと傍で見てきた私が言うんだから間違いないさ!さあ、気をつけて行ってくるんだぞ、有精卵よ」
目の前に差し出された力強い手は、養父としての俊典が差し出してくれたその手は、今は確かに九十九のためだけにそこにあった。
この手に、この人に、幼い頃からずっと憧れて育ってきたんだ。これは、彼に近づくための第一歩。絶対に、オールマイトのように笑顔で人を助けられる最高のヒーローになってみせる。
決意を新たにして、触れることさえ未だにドキドキしてしまうその手を九十九はぎゅっと握り返した。
「行ってきます!」