第13章 キャッチボールというかドッジボール
目の前の男の人と同時に声のする方を勢いよく振り返ると、昨日教室への道を教えてくれたミリオ先輩の全身バージョンが小走りでこちらへ向かってきているところだった。嘘……ガタイが良すぎる……顔が可愛いからもっとこう、こうね、うん。ガタイがいい。すごい。その隣にとんでもなく美しい女子生徒が見えて、確認のため強めに目を擦ってみたがやはりとんでもなく美しかった。
「なになに?その子知り合い?あー!ヌイグルミが動いてる!ねえそれ君の個性?どういう個性なの?もしかして一年生?そのトラ触ってもいい?」
「う、うおお!?ま、まってください距離が近い!」
十人いれば十人が振り返るだろうという程の美貌を持つその女子生徒は、近づいてきた勢いをそのままに、パーソナルスペースへと突入してきた。
穏やかな日の海の色を染料に使って染め上げたような晴れやかな髪の色と、同じ青でも好奇心にきらきらと輝く瞳は見ているだけで吸い込まれてしまいそうだ。彼女の髪の毛が首筋に触れてぞくりと肌が泡立つ。近い。あまりにも近い。なんかいい香りがする。ヤバイ。じわじわと顔が熱くなっていく。今おれすごい勢いで赤面してない?大丈夫?
「……波動さん、彼が怯えてる。下がって」
「君怯えてるの?どうして?近いのは嫌?もうご飯食べた?まだだったらね、日替わり定食をオススメするよ!いつも美味しいから!ねえ、ネコもいるんだね?他には何がいるの?」
不思議そうな顔がぐっと近づいてくるのに耐え切れなくなった九十九は、顔を片手で庇いながら、あわあわとバロンを差し出した。
「せ、先輩があんまり美人なので、おれそういうの耐性なくって、すみません。先輩が悪いわけではなく、おれの個性は付喪神で、えっと、モノに命を吹き込めて、今連れてるのはウサギとトラとネコですすみません」
「美人だってー!ねえ2人とも聞いた今の!」
「アハハハハ!九十九君顔が林檎みたいになってるよ!ヤバイ!」
「……波動さん、このままだとその子が死んでしまう」
ミリオ先輩は膝を叩きながら爆笑しているし、体調の悪そうな男子生徒は壁に向かって何かを呟いているし、美人のお姉さんはめっちゃグイグイ来るし、もう収拾がつかない。助けてくれ誰か。
「おい、いつまでギャーギャーやっとんだクソ九十九」
「か、勝己……!」