第13章 キャッチボールというかドッジボール
渡りに船とはこのことだ。助けて欲しいと必死に目で訴えると、勝己はおれの制服の襟を引っ掴んで乱暴に引き寄せた。そろそろ首のところのボタンが取れそうだけどこの際そんなことは言っていられない。突然の闖入者にキョトンとしている先輩方を気にもせず、勝己は食堂に来たときのようにおれを引き摺って歩いていく。
「油売ってる暇があったら席のひとつやふたつ取っとけやカス!」
勝己の肩に乗ったバニーがどこか自慢気におれを見降ろしている。
「席探してる途中でそこのお三方に出会ったんだって。勝己見つけてきてくれてありがとなバニー!」
「お連れさんかな?待たせてごめんね!会話が弾んじゃってね!」
「確かに弾みましたけどドッジボールって感じでしたよね!?ボコボコですよおれはもう!そこの壁の花先輩!体調大丈夫ですか!?無理せず保健室行ってくださいね!」
相変わらず壁と仲良くしていた先輩が、そのとき漸く壁から身体を離してチラリとこちらを見た。もごもごと口が動いてるから、恐らく何かを呟いているのだとは思うが、遠くて上手く聞き取れなかった。申し訳ないので軽く頷いて手を振っておく。
「君の髪の毛すんごくツンツンしてるね。地毛?もしかして今イライラしてる?その子の友達?君もヌイグルミ動かせる?ねえねえ」
相変わらず先輩方が凄い勢いで話しかけてくるが、勝己の足が止まることはなかった。
「おい……妙なのに絡まれてんじゃねぇよなんなんだあのうるせぇ奴らは」
「えーと、入学初日に壁から生えてた先輩と、その愉快な仲間たち」
親切心から完結にまとめたつもりだったが、言い終わる前に勝己の米神に青筋が浮かんだのを見て失敗を悟った。
「次意味分かんねぇこと喋ったらゴミ箱にブチ込んでやる」
「ごめんて……」
食券を買って勝己のいるテーブルに戻る頃には残り時間20分を切っていた。話し合いどころではない。先輩オススメの日替わり定食をかき込む間中勝己が睨みつけてくるおかげで冷や汗が出るし味があんまり分からないしでもう散々だった。
こうしておれの初めての高校学食デビューはやや残念な結果に終わったわけだが、まさか二度目の学食もあんな結末になるなんて、この時はまだ思いもしなかった。