第13章 キャッチボールというかドッジボール
「ぎゃっ、すみません!」
弾みで後ろにすっ転びそうになるのを気合で耐える。痛む鼻を片手で押さえながら顔を上げると、その人はこちらを思い切り睨んだ後ふいっと視線を逸らした。鋭い目つきを隠すように伸ばされた前髪と、重力に逆らって鈴蘭のようにふわりと広がった後ろ髪。こちらの方が身長が低い上に、彼がやや猫背なので正面にいるとかなり威圧感がある。もしかしてかなり怖い人にぶつかってしまったのでは、ないかな。もう一度謝ろうとして、彼の口元が微かに震えていることに気がついた。
もしかして、打ちどころが悪かったのか?慌てて腕を掴むと、男子学生はびくりと肩を揺らして一歩下がった。
「あ、突然すみません!もしかして体調悪いですか?保健室行きますか?」
保健室ってまだ行ったことないんだけどここからどれくらいかかるんだろう。多分1階だよな?バニーに運んでもらうか。勝己なら知ってるかな。ポーチを軽く叩くと、待ってましたと言わんばかりにバニーが顔を出した。
「バニー、今勝己とかくれんぼしてるんだけどさ、おれだけじゃ見つけられないからちょっと手伝ってくれ」
こくこくと頷いたバニーが元気よく飛び出していく。あ、でもリカバリーガールもお昼休憩かも知れないし一度確認を取ってからか。余計に時間がかかるな。ううむ。
「……こっちこそ悪かった。怪我はないか」
「あっ!?意外と優しい!思いっきり睨んでくるからてっきり勝己系の人かと思った。大丈夫ですおれはこの通り元気なので。君こそ大丈夫?震えてるみたいだけど、座る?それとも保健室行く?水が飲みたかったら持ってくるよ!それとも毛布取ってこようか?」
力なく左右に振られた烏の濡れ羽色の髪が、血の気の引いた頬に触れるせいで、より顔色の悪さを強調している。本当に体調が悪そうだ。早く帰ってきてくれバニー。
「はぁ……初対面なのにグイグイ来るな君は……だから食堂は嫌なんだ……帰りたい。ミリオ……俺を置いて一体どこへ行ってしまったんだ」
「おーい、環~!こっちこっち!さっきそこで波動さんと一緒になって……ってあれ?君は昨日の七不思議の!」
「その聞き覚えのある声は、壁の顔ことミリオ先輩!?」