第12章 その件に関しましては
「ランチラッシュ!ランチラッシュ!ランチラッ……アッ!?食堂ってどこだっけ?このままでは午後の授業を迎える前に飢えて死んでしまう」
席を立って直ぐに悲しげな声で鳴き始めた腹の虫を抱いて、九十九はその場に蹲った。いつも通り朝ご飯はしっかり食べてきたつもりだったけど、最近は昼を待たず猛烈に腹が減る。朝ご飯の量、増やすか。俊典さんに相談してみよう。おやつにバナナを持ってくるのもいいかもしれない。含まれる糖分は即効性のものから遅効性のものまであって腹持ちがいいし、甘くて美味しいから好きだ、バナナ。あー、考えてたら食べたくなってきた。バナナに思いを馳せていると、突然首根っこを掴み上げられた。不機嫌そうな勝己の顔がドアップで現れる。
「おい、ツラ貸せや」
「嫌です」
「ああ゛?」
「めっちゃ喧嘩腰じゃんお前。今体力ないから後でな。それより飯行こう飯。何食う?やっぱり辛いやつ?舌を大事にしないとダメだよ勝己はぶっ!」
言葉の途中で手を離されて、お尻から地面に落下する。危うく舌を噛むところだった。ご飯前に口内を怪我することが何を意味するのか分からん勝己ではあるまい。おのれ……宣戦布告かこれは……
苛立ちを全部込めたような盛大な舌打ちをした勝己は、地面に座り込んだままのおれの襟を乱暴に引っ掴んで、引き摺りながら歩き出した。
「やだやだ~~!扱いが雑~~!」
「ちったぁ黙ってられねぇのかテメェは!」
「黙ってほしければご飯を口に入れろー!おれ様は飢えていんぐっ!?」
振り返った勝己がおれの口に何かをねじ込んだ。咳き込んで涙目になりながら咀嚼すると、ジワジワと甘い味が口内に広がっていく。所々にドライフルーツが散りばめられたそれは、どうやらブラウニーのようだ。美味い。空腹に甘味が染み渡る。
もぐもぐと満足気な顔で頬袋を動かす九十九をちらりと横目で見て、勝己は小さく舌打ちをした。