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《ヒロアカ》夢みるタマゴと春の唄

第12章 その件に関しましては


「……クソデクはどうか知らねぇし知りたくもねぇが、俺はまだお前を許したわけじゃねぇからな」

怒りを押し殺した平坦な声だった。引き摺られたまま、九十九はのろのろとした緩慢な動きで幼馴染の後ろ姿を仰ぎ見た。

「……うん、ごめんな」

与えられたお菓子を一息で飲み込んで発した声は、予想より遥かに小さなものだった。

「何の誠意もねぇ謝罪ならしねぇ方がマシだ。殺すぞ」

無理やり連れ出された理由が腑に落ちたのはいいが、まだ心の準備ができていない議題に内心焦る。彼が怒っている理由がおれの想像する通りのものならば、勝己の言う通り口先だけの謝罪で済むはずがないからだ。

九十九が慎重に言葉を選んでいる内に、いつの間にか目的地の前に到着していた。木の装飾に縁どられた「LUNCH RUSHのメシ処」と書かれた看板が、食堂の入口に飾られている。その前に転がされた九十九の口から小さく感嘆の声が漏れ、期待に踊る腹の虫が歓喜の雄叫びを上げる。写真を撮ろうとスマホを取り出す九十九に構わず、勝己は食券を買いに行ってしまった。その後ろ姿を目で追って、九十九は久しぶりに自分の足で立ち上がった。

喧嘩ではなく昼を一緒に食べながら話し合う方向に切り替えたということでいいんだろうか。勝己と静かに話し合いをするってのも怖いな。逃げたい。いやでもあの勝己がわざわざ呼び出したってことは、やっぱりさっきの件に決着をつけたいんだと思うし、ここは潔く腹を括ろう。

「そうと決まれば、先に席を取っといたほうがいいな」

入口からちらりと見ただけでも、人がごった返している。整然と並べられたテーブル席が埋まるのも時間の問題だろう。カーテンのように席を仕切る観葉植物の間を彷徨い歩きながら足早に空席を探していると、誰かに思い切りぶつかった。
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