第11章 かまってよ、カピバラ様
「そりゃあテストでホイホイ使えんよな。そうだ、さっき飯田が言ってた、入試で出久が個性使った件、そのときもこんな感じだった?」
かなり痛そうだけど、あれでテスト続行できるのか?保健室に行って見てもらった方がいいんじゃないだろうか。
「いや、もっと凄かったぞ。なにせあの0Pを一撃で破壊したのだから」
九十九の心配をよそに、出久は指の怪我を感じさせない程に晴れやかな表情で帰ってきた。
「あれを!?一撃で!?」
「いや、あのときは夢中で」
「かっこよかったよー!」
麗日がニコニコしながらパンチを再現する。真っ赤になった出久が意味を成さない言葉をもにょもにょと呟くのを、九十九は生暖かい目で見つめた。
「春、か」
「そうだな、時期的に今は春で間違いないぞ八木君」
「いや真面目かよ」
その後の出久は、やはり個性を使うことなく全種目を終えた。制御できない個性を博打のように使うやり方でここまで来たのだとしたら、出久のこれからが心配だ。そうだ、生徒は学校の設備を自由に使用できるらしいから、一緒に特訓しないか聞いてみよう。もしかしたら、何か力になれるかもしれない。正直おれも、自分の個性を使いこなせているとは言い難いし、お互いにこう、アレだ、まだまだ伸び代があるってことだ。いいことじゃないか。そうだ、ただ心配していたって始まらない。前向きに行こう。
持久走でバニーにお姫様抱っこされながら、九十九はそう心に決めた。結局、九十九が個性を活かせたのは50m走、握力測定、立ち幅跳び、持久走の4つだけだった。ソフトボール投げでもボールに個性を使ってみたが、少し飛距離が伸びた程度で結果はふるわなかった。ボールに羽でもついていれば結果は違ったかもしれないが、やはり本来の形からはみ出る動きはできないらしい。
麗日も個性でボールを無重力化して「∞」を叩きだしていた。触らないと発動しないのは厄介だが、あの個性なら対敵でも災難救助でも活躍するだろう。尊敬の気持ちを込めて麗日を見ると、にこりと微笑まれた。そう、名前の通りとても麗らかな笑顔だ。癒される。最高。