第11章 かまってよ、カピバラ様
手の中から押し出されたボールが凄まじい速さで空を切り、晴れ渡った青空の中を駆けていく。結果705.3m。
「お、おお……っ!?マジか、マジか出久!すごい!すごいって!なあ!」
思わず隣の勝己に飛びついて、次の瞬間ハッと我に返った。しかし何時までたっても殴られない。不思議に思った九十九は、これ以上彼を刺激しないようにゆっくりと体を離し、その顔を覗き込んだ。珍しくポカンとした顔の勝己の表情が、見る見る内に険しくなっていく。
「どーいうことだこらワケを言えデクてめぇ!!」
「うわああ!!!」
爆破の勢いに乗って出久に掴みかかろうとする勝己を、相澤先生が止めた。彼が放った白いマフラーのようなモノが、勝己の体をがっちりと拘束している。
「ぐっ…んだこの布固っ…!!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ「捕縛武器」だ。ったく何度も“個性”使わすなよ…俺はドライアイなんだ」
“個性”すごいのにもったいない!!相澤先生のまさかの発言に、クラス全員の心がひとつになった。個性を強制的に使用不可にする個性は、この現代社会において絶対的な力を持つ強個性だが、ドライアイということはつまり使用時間と回数に制限があるのだろう。どう考えても致命的な欠点だと思うが、一体どうやってカバーしているのだろうか。先生は、懐から目薬を取り出しながらテストの続きを促した。
「時間がもったいない。次準備しろ」
ボールを投げた出久の指は、赤く晴れ上がっていた。どうやら彼の個性は、使うと体が壊れてしまうリスキーなものらしい。いや、制御できるようになれば、もしかすると怪我も減るかもしれない。まだ使い慣れていないみたいだし、可能性はあるだろう。