第10章 無個性のザコはもういない
「ったりめーだ!無個性のザコだぞ!」
「無個性!?彼が入試時に何をしたのか知らんのか!?」
勝己って出久のことに関しては過剰に反応するよな。指摘しようものなら間違いなくこの場で消し炭にされることを考えながら、九十九は飯田の真似をして腕を組んだ。
「もしかして、何かリスクがあるとか?それとも発動に条件が?」
ボール投げに向かう出久は、どんよりと暗い影を背負って今にも倒れてしまいそうだ。あの感じだと本当に個性が使えないのか?そうだ、中学に上がってから発現したのなら、まだ使い慣れていないのかもしれない。個性が発現するのはもれなく4歳までだ。それ以降に出たって話は聞いたことがない。出久のやつ、きっとすごく嬉しかっただろうなぁ。
幼い頃から人一倍ヒーローに憧れる自他共に認めるヒーローオタクの出久に個性がないのはどういう皮肉だと、九十九はずっとそう思っていた。
「出久~!頑張れよ!」
「なに応援しとんだコラ」
ボールを思い切り振りかぶった出久に、周囲のざわめきが一瞬止んだような気がした。するりと彼の手を離れて放物線を描いたボールは、しかし46m先で呆気なく落下してしまった。
「ああ……」
「ほら見ろ。やっぱデクは無個性の出来損ないだろうが」
「君は本当に口が悪いな!彼は無個性ではないし、例え無個性であったとしても断じて出来損ないなどではないぞ!」
驚愕の表情で両手を見つめる出久に、相澤先生が声をかけた。重力に逆らってふわりと浮き上がった髪が力を失い、はらはらと落ちてくる。