第10章 無個性のザコはもういない
九十九は測定器を両手で抱えるように持ち、いつもの要領で個性を使った。自分の中から、掴んだ手を通して測定器へと水が流れ込むイメージ。リンと透き通った鈴の音が鳴った。
「おはよう。なあ、少し手伝ってほしんだけど、いいかな」
測定値の限界を出して欲し旨をぼそぼそと伝える。ぶるりと測定器が震え、その直後、まるで噛み付きでもするかのように、勢いよく握りが天辺にくっついた。値が振り切れ、画面に現れた「∞」の文字を相澤が読み上げる。
「∞!?どうなってんだあいつの握力!怖ぇよ!」
どよめく観衆たちにピースサインを送る九十九に、切島が駆け寄る。
「すげぇな九十九!一体どうやったんだ!?」
「測定器に個性を使ったんだよ。おれの個性、モノに命を与えられるんだ」
「すっげ~~~!!!!」
九十九の肩をがしりと掴んだ切島が、瞳を輝かせながら興奮のままに彼をがくがくと揺さぶった。
「まっ、待て。待て待て。立ち幅跳び、もうすぐおまえの番だろ。行かんでいいのか」
切島の腕をタップしながら必死に訴えると、彼はハッした顔で「忘れてた!」と言い残して立ち幅跳びへと向かっていった。すごい力だった。彼の個性は筋力増強だろうか。そう言えば、出久もパワー系って言ってたっけ。しかし出久がパワー系か。なんか想像できないな。いいよなぁパワー系。「ちびっ子に聞く!好きな個性NO1選手権」でもパワー系の個性は毎年一位を獲得している程の人気っぷりだ。まあ、オールマイトがそういう個性だからってのは大きいと思うけれど。というか出久はそんなかっこいい個性が発現したのに、なんで使わないんだよ。テスト向きだろどう考えても。
その後も出久は、立ち幅跳び、反復横跳びでも個性を使うことはなかった。ふるわない結果にわなわなと震えている出久を観察する。最下位は除籍だぞ。どうするつもりだ出久のやつ。
「緑谷くんはこのままだとマズイぞ…?」
左隣のキリリとした眼鏡男子が、小さく呟いた。その僅かな声を拾い上げた勝己が、ビシリと音がつきそうな速度で出久を指差す。