第9章 跳び回れ、ウサギ君!
バネの軋む音がターボエンジンの音にかき消される。スタートダッシュをキメた八百万はそのままの勢いでゴールへと爆走していく。その勇ましい後ろ姿にひとっ飛びで追いついたバニーは、中間地点の25mで一旦着地して再び飛び上がった。風を切って跳ぶ心地よさに、九十九の頬が緩む。
「さすがバニー!かっこいいぞ!」
今日は滅多に使わないお高い洗剤と柔軟剤で洗ってやろうと心に決める。結果は4秒台だった。そこから先を聞くことは叶わなかった。ゴールに着地したバニーは、あろうことか再び地を蹴って遥か先へと飛び上がった。
「ちょっ……」
先程までの軽やかな跳躍が嘘のように、バニーは凄まじい勢いでグラウンドの外周を駆けていく。重力に引っ張られて吹き飛ばされそうになる九十九をバニーは力強く抱き込み、グラウンドを5週して満足するまで決して放さなかった。
「うええっ……酔った……」
「大丈夫?」
そっと背中を摩ってくれる出久の優しさに涙が出そうだ。地面の上にぐったりと横になった九十九の足を勝己が蹴り飛ばす。
「てめぇの個性にいいように振り回されてんじゃねぇよザコが」
「んだとコラ!バニーは自立したウサギなんだよ!何でもかんでも命令に従うようなカンタンなやつじゃねぇの!」
小馬鹿にしたように鼻で笑うと、勝己は次の種目「握力測定」をするために去っていった。わざわざ馬鹿にするためにおれのところに来たのか勝己は。暇人か。
「歩ける?担いでいこうか?」
「大丈……うっぷ。大丈夫!勝己が行ったってことは次は出久だろ。おれに構わず、先に行け」
「でも」
「ここはおれが食い止める。後で必ず追いつくから……さあ行け!行くんだ緑谷出久!」
ギリ、と険しい顔で歯噛みした出久は、大きく頷いて踵を返した。
「待ってるから」
そう言って走り出した出久に、九十九はひらりと手を振って答えた。
「久しぶりだなこの感じ。フラグ乱立ゲーム、小さい頃よくやったなぁ」