第9章 跳び回れ、ウサギ君!
「遂に来た!なあバニー、協力してくれない?ダメ?」
ぴょんとポケットから抜け出したバニーは、その場で巨大化して九十九を担ぎ上げた。いつもよりやや乱暴な動作に苦笑いが漏れる。
「恩に着るよ」
先にスタートラインについていたポニーテールの女の子が、その様子を物珍しげな表情でじっと見つめている。
「まあ、可愛らしい。素敵な個性をお持ちですのね」
「えへへ。ありがとう」
「クソッ……女ウケの良さそうな個性しやがって……」
吐き捨てるようにそう言ったのは、お団子がいくつも連なったような髪型の小さい男の子だ。
「男ウケもいいんだぞ!」
出久も褒めてくれるし、俊典さんだって評価してくれてる。小さい頃は勝己だって……
可愛かった頃のミニ勝己を思い出していると、ポニーテールの子がジャージの胸元をガバリと勢いよく開いた。九十九がタコのように真っ赤になりながら顔を逸らすのと同時に足元の男が奇声を上げながら前のめりになった。慌てて男を捕まえて目を塞ぐ。ゴトリと重い音を立てて地面に落下したモノに、恐る恐る目をやった。
なんだ?どこからどう見てもキックボードにしか見えない。一体何が起こったんだ。
「ど、どうなってんのそれ?」
「ああ、これですか?ターボエンジン付きのキックボードですわ」
「いや、そういうことが知りたいのではなく……ってすごい個性だね。なんでも作れるの?」
「いえ、構造を理解しているものだけです」
「はあ~~便利。すげぇ強い」
彼女は、はにかみながらキックボードをセットして相澤先生へ視線を送った。
「よし、始めるぞ」
「頼むぞバニー」
笛の音が高らかに響き渡った。