第5章 やだ、おっきい
「…っ!アトム、あの瓦礫の下に人がいる!落下物の除去を頼む!」
『あいさー!』
「タイガーとバロンは心操の回収を!他にも周囲に怪我人がいたら連れて逃げろ!」
アトムから飛び降りた九十九をバニーが受け止める。こくりと頷いた2匹は瞬時に巨大化して、猛スピードで心操の元へ向かったアトムの後に続いた。
「バニー、おれを連れてあのでっかいのの上まで跳べるか」
ぎりぎりとバネのしなる音が、彼の返事だった。抱えられたままで首元にしっかりと抱きついて衝撃に備える。内蔵がひっくり返りそうな重力が一気に体を襲い、九十九は引き剥がされまいと必死にしがみついた。目を閉じそうになるのをグッと堪える。バニーは巨大な仮想敵の天辺に軽やかに着地すると、今にもゲロを吐きそうな九十九を装甲に放り出した。
「ぐえっ……ありがとうバニー。助かった」
不安定に揺れる0Pに意識を集中させる。これだけ大きなものに個性を使うのは初めてのことだった。目を閉じて流れる水のイメージに焦点を合わせる。できるか、おれに。心操は無事だろうか。ちゃんと助けられただろうか。また失敗してしまうのでは。ざわざわと言いようのない不安が意識をかき乱す。ダメだ、集中しろ。これ以上被害を拡大させないためにもおれがここで止めなければ。大丈夫、お前ならやれる。困った人を笑顔で助けて「私が来た!」って言えるような、オールマイトみたいなかっこいいヒーローになるんだ。
「止まれ!頼むから止まっ…うおっ!?」
突然方向転換をした0Pに、一瞬反応が遅れた。体が宙に投げ飛ばされる。もふりとした感触が九十九の片手を覆い、それがバニーだと気がついたときには再び0Pの上に投げ飛ばされていた。代わりに落下していくバニーに0Pが腕を振り下ろす。
「バニー!」
そう遠くないところに、数名の怪我人を運んでいるタイガーとバロンが見えた。逃げ遅れた受験生たちも、なるだけ遠くへ離れようと必死に走っている。不味い、このままだと、本当に。
「止っま、れぇぇぇぇええええ!」
0Pがバニーを地面に叩きつける直前、まるで九十九の声に呼応するかのように僅かに動きが鈍った。
《終了~!!!!》
始まりを告げた声が、高らかに終わりを告げる。と同時に動きを止めた巨大仮想敵の上で、九十九は大きく息を吐いた。