第5章 やだ、おっきい
「ヒャッハー!!!進めアトム~!!!」
風を切って進む1Pの上にしがみついて、九十九は目を輝かせていた。アトムと名付けられた1Pロボは、九十九を乗せたまま他の仮想敵を器用に破壊していく。タイガーに斥候を任せ、その情報を元にバニーに道案内を任せる作戦に切り替えて、九十九は既に1Pの仮想敵を3体、2Pを1体仲間に引き入れることに成功していた。現在残り5分。持ち点30P。バニーとタイガーの力が切れたときのために、バロンを胸ポケットで待機させてあるし、まだ数回は個性を使えるだけのエネルギーも残っている。合格ラインが明かされていないのが不安ではあるが、このままラストまで突っ走れたらきっと大丈夫、だと思いたい。
「アトム、お前強いな~!かっこいいな!」
『もっと褒めろ』
「よーしゃよしゃよしゃよしゃ」
「おいなんだあいつ」
「なんで仮想敵が他の仮想敵を破壊してんだ?バグか?」
片手で硬い装甲を撫で回す九十九の背中に、いつの間にかミニサイズに戻ったタイガーがしがみついていた。そのふわふわとした柔らかい手に、容赦ない力で耳を引かれて振り返る。
「いたたたた、どうし……は?」
高層ビルをなぎ倒しながら、とんでもないサイズの仮想敵がこちらに向かってきている。ヒュッと喉がなり、説明会場での説明が頭を過る。あれが、0Pのお邪魔虫か。それにしても
「なんっだあの大きさ…」
轟音と共に、破壊されたビルの欠片が落ちてくる。遠くへ避難しようとした矢先、0Pの足元に誰かが倒れているのが見えた。
「心操……?」
ゾワリと背筋に悪寒が走る。彼は額から血を流して倒れ伏したまま、ぴくりとも動かなかった。死んで、いるのだろうか。いや、そんなまさか。これは試験だぞ。死人が出るなんて有り得ないだろ。そんな話今まで聞いたことがない。
さっきまで話していた同い年の少年が血を流して倒れているという目の前の現実に、自分を安心させようという心理が柔らかく蓋をする。九十九の動きが僅かに鈍った。降り注ぐ欠片のひとつが、心操の上に影を落とす。
自分の両頬を思い切りぶっ叩いて、九十九は使役する仮想敵から身を乗り出した。