第5章 やだ、おっきい
個性を使いすぎて力の入らない体が、装甲の上をずるりと滑り落ちていく。
「あ、ヤバ」
取っ掛りに捕まろうにも、体が動かない。滑り台から放り出されるようにして、九十九の体は放物線を描いて落ちていく。
「おいおいおい!?なんか人落ちてきてっけど!?」
九十九の視界の端にこちらに駆けてくるヌイグルミたちが映った。バニーもタイガーも巨大化が解けてしまっている。これだけ派手に動いたんだ、彼らもそろそろ活動限界だろう。というかおれも限界だわ。バロンは辛うじて大丈夫みたいだけど、この距離だと受け止めてもらうのは難しそうだ。もう眠くてたまらない。しかし死ぬのも嫌だ。今私の願い事が叶うならば翼がほしい。
「ケロケロ」
目を閉じそうになったとき、腹部に何かが巻き付いた。そのまま投げ飛ばされて、誰かの腕の中にすっぽりとくるまれる。
「よっ、さっき振りだな」
「尾白!」
「大丈夫かしら。その子、怪我はない?」
「見た感じ外傷はなさそうだけど……どんな感じだ、九十九」
「体に力が入らん。個性使い過ぎた。それにしても尾白に助けられるの2回目だな。今度飯でも奢らせてくれよ。あと、そこの君も、ありがとう」
「いいのよ。困ったときはお互い様だわ」
ケロケロと穏やかに笑う少女は、蛙吹梅雨と名乗った。
尾白に支えてもらいながらヌイグルミたちを回収して、運んでいた怪我人の様子を見に向かった。いつの間にか意識が戻っていたらしい心操が、悔しそうな顔で俯いている。なんと声をかけたらいいのか分からなかった。九十九はただ黙って彼の隣に立ち、会場をぐるりと見渡した。
場を包んでいた緊張が、次第に解けていくのが分かる。その場に腰を下ろす者、試験の内容について情報交換をする者、他愛もない話に花を咲かせる者、悔しそうな表情の者、晴れやかな表情の者。それぞれにそれぞれの物語があった。結果が合格でも不合格でも、今日のことは生涯忘れないだろう。不合格という可能性がちらついても、不思議と晴れやかな気持ちだった。
当たって砕けるってこういうことなのかな。いや、まだ砕けたと決まったわけではないし!きっと大丈夫!
その後、怪我人の治療をしにやってきたリカバリーガールにそのまま保健室へと強制連行され、九十九は体力が戻るまで数時間監禁されることになった。