第4章 初めましてだライバル諸君!
「おい、何を」
「そいつバロン。甘えん坊なんだよ。ちょっと構ってやってくれ」
「はあ?なんでおれが」
そう言いながらも彼は慣れた手つきでネコを撫で始めた。
よかった。やっぱりネコ好きさんだった。少し穏やかになった表情にホッとする。確かに心操の言う通り、同じ受験者に個性を教えるってのはあまり良くないのかもしれない。この試験はロボットを行動不能にしてポイントを稼ぐ形式だ。試験内容から言って、他の受験者と協力するメリットはない。合格ラインも明かされていないわけだし。でも、プロヒーローは個性がバレている状態でヴィランと戦わなければならないお仕事だ。バレても問題ないくらいでないと務まらないだろう。それに、おれは隠し事が下手だ。そういうの向いてない。聞かれたら答えちゃう。
「なあ、心操の好きなヒーローって」
《ハイスタートー!》
「えっ?」
《どうしたあ!?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?》
いつもラジオで聞いていたプレゼントマイクのハイテンションな声が、今は会場のどこかに設置されたスピーカーから大音量で響いてくる。我に返った受験者たちが一斉に会場へと雪崩込むのに巻き込まれて擬似市街地へと押し流されながら、九十九はハッとした顔で心操を見た。と同時に顔面に何かが張り付く。
「うぶっ」
「忘れもんだ!」
もぞもぞと服の中に入ってきたのはバロンだった。鬼気迫る受験生の流れに飲み込まれながら、九十九は心操に向かって親指を立てた。
「ありがとー!お互い頑張ろうなー!」
この状況では彼と再会するのは難しいだろう。もっと話したかったけど残念だ。ああ、もう見えなくなってしまった。入学式で会えるといいな。
いつの間にか肩にしがみついていたヌイグルミたちを確認して、九十九も漸く自分の足で走り出した。
おれの個性「付喪神」は、触れたモノに命を吹き込む。触れていた時間や気分、その他諸々の要因によって、恐らく生命力の受け渡し的なアレがアレして活動時間が変わってくる。モノを自在に動かせるわけじゃないが、簡単なお願いなら聞いてもらえるって感じだ。命を吹き込んだモノの親になるって言えば分かりやすいだろうか。我ながら説明が下手。