第4章 初めましてだライバル諸君!
「っしゃ~!いっちょやったるか!」
視界の端から端までを覆い尽くす勢いで広がる金網の向こうには、擬似市街地が広がっている。確か試験会場は7箇所あるって言っていたけど、この規模の市街地が7つも存在する雄英の敷地面積ってどれ程のものなんだ一体。さすが雄英、恐るべし。
落ち着きなく辺りを見回したり、その場で瞑想をしたり、ストレッチをしたりと受験生たちの様子も十人十色だ。九十九も脳内でラジオ体操の音楽をかけながらゆっくりと体を解していく。あと10分もしない内に始まるだろう。次第に温まってきた体に比例するように緊張が高まっていく。
九十九の腰に巻いたポーチから、掌サイズのトラのヌイグルミが飛び出した。くるくると回転しながら門の前にヒーロー着地を決めたそのヌイグルミを見て、九十九の頭の上に乗って遊んでいたバニーもその隣に降り立った。
「二人共、斥候よろしく!」
「随分とファンシーな個性持ってんだな」
緊張にざわつく人々の中からぬっと現れたのは、目の下を縁取るような濃い隈を持つ男だった。ちょうど、動きたがらないネコのぬいぐるみをポーチから引っ張り出していた九十九は、男とヌイグルミを交互に見つめ、すっとヌイグルミを差し出した。
「気に入ったんならモフっていいぞ」
「いい。ただの敵情視察だ」
「そっか。おれの個性は付喪神なんだ。ざっくり言うと、こうやってモノに命を吹き込めるって感じね。ついでに名乗るけどおれは九十九です。どうぞよしなに」
「ライバルに個性を教えるなんて余裕だな。その個性で勝ち残れると思ってんのか?」
「うん」
こくりと頷くと、彼は嫌そうな顔で舌打ちをした。きっと、試験開始直前で気が立っているのだろう。そわそわと落ち着きのない手を握ったり閉じたりしている。
「名前、教えてくれないのか?」
「……心操」
「心操ね、おっけー覚えた!」
その目がやはりネコのヌイグルミをちらちらと見ているような気がして、九十九は腕の中でところてんのように垂れ下がっているやる気のないネコを彼の腕の中に押し付けた。