第4章 初めましてだライバル諸君!
『標的補足!!ブッ殺す!!』
「うおおおお!!!」
つまり、対象物に触れられなければどうしようもないわけだ。斥候として放っておいた2つのヌイグルミがちょうど1Pの仮想敵の真下にいるのを見つけて、九十九は大きく息を吸い込んだ。
「タイガー&バニー!巨大化!」
ぽふん!と気の抜けた音を立てて二匹のヌイグルミが膨れ上がる。その音をかき消す様に、1Pのアームが九十九の頭上数cmをなぎ払った。風圧に押されて体が地面の上をボールのように転がっていく。
「痛っ…てぇ」
ふらふらと身を起こしていると、誰かが手を差し伸べてくれた。彼の背後に、もう一人誰かが立っている。いや、人じゃない。これは、尻尾か?先端に生えたふさふさとした毛が、尻尾の動きに合わせて揺れている。
「おい、大丈夫か?」
「うん、ありがとう。尻尾、かっこいいね」
「えっ?あ、ああ。ありがとう」
好意に甘えて、そのまま手を掴んで引っ張り上げてもらった。
「でっかいヌイグルミだな。君の個性か?」
先程までの10倍程の大きさになったトラとウサギが1Pロボを抑え込んでいる。怪獣映画のワンシーンのような迫力だ。
「そうそう。二匹とも、そのまま抑えといてくれ。尻尾の人、おれのことは九十九って呼んでね」
「じゃあおれは尾白って呼んで。って自己紹介してる場合じゃない、な!」
反対側の路地裏から現れたもう一体の1Pを尻尾でなぎ倒して、尾白はひらりとその場に着地した。身長と同じくらいの大きな尻尾を持っているとは思えない程身軽だ。
「じゃあ、おれはもう行くから。新学期に会おう」
尻尾を使って高く飛び上がった尾白は、建物の壁をぶち抜いて現れた2Pの仮想敵を破壊して去っていった。
「うわぁ、かっこいい。惚れそう…ってアホか!おれも頑張らないと」
九十九はヌイグルミたちに押さえつけられてもがいている1Pに近づいて、その腕に抱きついた。水が高いところから低いところへ流れるように、自分の中から相手の中へと生命力が流れ込んでいく様をイメージする。かなり疲れるが、時間がないのでバルブは全開だ。鈴が鳴るような甲高い音を立てて、仮想敵の動きが止まった。
「おはよう、ロボット君。起きて早々悪いんだけど、ちょっと協力してもらえるかな」