第3章 感動の、再会?
「るっせーんだよ!ペラペラ喋ってる暇があったら念仏でも唱えとけゴミ!完膚なきまでに叩き潰してやっからよぉ」
「あれ?これから始まるのって入試だよね?殺し合いじゃないよね?」
盛大に舌打ちしながら去っていった勝己を見て、出久と顔を見合わせた。
「変わってないなぁ」
「はは…」
引き攣った苦笑いを浮かべる出久の口から乾いた声が漏れる。
「まあ、勝己はともかく出久がいるなら心強いよ。あ、連絡先教えて」
「うん。僕も教えてほしい」
出久の待ち受けは、案の定オールマイトのキメ顔だった。ポーチにスマホを戻そうと奮闘していると、「あ」と小さな出久の声がした。先に一歩踏み出した出久が、自分の足に躓いてふわりと浮き上がった。咄嗟に支えようと手を伸ばしたところで違和感に気付いた。出久が宙に浮いているように見える。ゴシゴシと目を擦ってもう一度彼を見たが、やはり出久はふわふわと空中を漂っていた。
「大丈夫?」
「わっえっ?」
状況が飲み込めず目を白黒させる出久を、栗色の髪の女の子が心配そうな顔で覗き込んでいる。彼女は、無重力の海を宇宙飛行士よろしくふわふわと漂う出久の腕を掴んでそっと引き下ろした。ストッと軽やかな音を立てて、両足が地面に着地する。ふわりと女子特有のよい香りが漂ってきて、九十九の心臓が跳ねた。
「私の“個性”ごめんね勝手に。でも転んじゃったら縁起悪いもんね」
にこにこと微笑む彼女の柔らかい表情に目が釘付けになる。THE 癒し系!って感じの子だ。出久はただただ真っ赤な顔であわあわしているが。しっかりしろ出久!かわいい女子とお近づきになれるチャンスだぞ!
「へ…あ………えと…」
「緊張するよねぇ。あ、君、お友達?」
「そう、友達!ごめんね、こいつ過度な緊張しいでさ。今は言語とおさらばしてるけど、その内元に戻るから」
「あはは!もうすぐ試験だもんね。お互い頑張ろう」
「うっす!」
爽やかに立ち去っていく彼女の背中を見送って、九十九はハッとした表情でその場に膝をついた。彼女の名前を聞いていない上に、こちらも名乗っていなかったことに漸く気がついたのだ。